≪きふる≫では、まだ表に浮かび上がらない社会課題に光を当て、支援の手を届けるために、社会課題を取り上げている論文をシリーズでご紹介いたします。
出産とトラブルは切っては切れない関係。
それでも頑張って、この世に生まれてきた赤ちゃんを、集中的にケアする場所が病院にはあります。
それは「NICU」
NICUとは、新生児集中治療室のことです。
早産などによる低体重児や先天性の重い病気を持つ新生児を受け入れ、専門医療を24時間体制で行っています。
健康な赤ちゃんはもちろんですが、治療が必要な赤ちゃんはさらに家族の支援が必要になってきます。
そこで今回は、NICUを退院したこどもを育てる母親・父親は、子育てに対してどのような意識を持っているのか、研究された論文を紹介しましょう。
※この記事は、白坂・越田・桑田 (2017)「NICUを退院した子どもの子育てに関する両親へのアンケート調査」の紹介です。(書誌情報は記事の最後に記載してあります)
調査方法について
とある病院のNICUを退院し、小児科外来でフォローアップ検診を受けている子どもの両親を対象として、アンケート調査が行われました。
質問事項は家族構成、出産時の状況、子育て環境、外来フォローアップ検診について。
そして、父親と母親それぞれの気持ちや体調です。
371組にアンケート用紙を配布し、そのうち154組から返答がありました。
そのなかでも、回答に不備のない150組300人分のデータから、現状を分析しています。
そのうち、祖父母などの親族と同居していない核家族は126組。
双子や三つ子などの双生児は19組でした。
気分や体調はどうか
「この1か月間のご自身の気持ちや体調はいかがですか」という質問です。
白坂・越田・桑田 (2017)表1より作成
白坂・越田・桑田 (2017)表1より作成
このことから、気分の不調よりも、体調の不調を訴える親が多いことがわかりました。
心身ともに良好と回答した母親・父親は全体の5~6割。
なかでも、心身ともに調子が悪いと答えた母親は、全体の1割。
育児がこころと身体の両方の負担になっていることがうかがえます。
今回行われた調査では、5割が0歳児の子どもを持つ両親、3割が1~3歳の子どもの両親です。
この時期は、育児そのものに手がかかり、睡眠不足につながりやすいと言われています。
「子育て中の母親の健康への配慮や支援」「心身の病気に至る前に助けを求められると、対処できる力をもつこと」(白坂・越田・桑田,2017,2頁)
が大切であるとしています。
この質問では、父親と母親の間で差は見られませんでした。
子育ては楽しいか
「子育ては楽しいですか」という質問です。
白坂・越田・桑田 (2017)表2より作成
白坂・越田・桑田 (2017)表2より作成
≪子育てに困難を感じる≫と回答している両親は 3〜4 割でした。
決して少なくはない数値ですが、≪子育ては楽しい≫と回答したのは、父親・母親ともに 8 割を超えています。
「出産後一定期間NICUに入院する子どもと家族は、治療のため親子が離れて生活することを余儀なくされる。そのため、母親の育児不安が高く、母子関係の確立に困難を伴う」小泉武宣(2000)
と、これまでの研究でも報告がされています。
実際に、乳幼児の虐待は、NICU入院歴がある子どもの割合が高いことが、報告されています。
「昨今のNICU看護は、子どもの身体的なケアだけでなく、家族全体へのファミリーケアも充実している」同,2頁
とのこと。
その努力が実り、8割もの両親が「子育ては楽しい」と回答したのではないでしょうか。
自分の時間はあるか
「自分のために使える時間を持てていますか」という質問です
白坂・越田・桑田 (2017)表4より作成
白坂・越田・桑田 (2017)表4より作成
「時間を持てている」と回答した父親は全体の56%、母親は43%でした。
一方、「時間を持てていない」という回答はどうでしょうか。
父親は全体の16%、母親は31%と父親・母親で13%の差が出ています。
全体的に見て、子育てを主に担う母親の方が、自分の時間を持てていないことがうかがえます。
父親は育児に参加しているか
最後は「お父様は育児をしていますか」という質問です。
白坂・越田・桑田 (2017)表5より作成
「よくしている」と答えた母親は52%でした。
具体的には、お風呂、おむつの交換、遊ぶ、着替え、食事の援助、寝かしつけ、学習の援助などが挙げられています。
先ほどもご紹介しましたが、NICU を退院した子どもの母親(妻)は、心身的負担が大きく、乳幼児虐待につながりやすいことが報告されています。
そのこともあって、父親は育児に関心が寄せられ、比較的育児に協力的なのではないかと思われます。
父親自身の評価
白坂・越田・桑田 (2017)表5より作成
しかし、父親は自身を控えめに評価をしていることがわかります。
育児を「(自分自身は)よくしている」と答えた父親は34%に留まっています。
母親の52%は、育児に協力的だと認めているのにも関わらず、です。
これまで、新生児のことや、育児にかかわる母親のサポートには注意が向けられていました。
しかし、最近は「イクメン」という言葉も生まれ、家庭の中での父親の役割は昔から変わりつつあります。
論文には、最後に「父親を労い、必要であれば支援の対象とする見方が大切。(中略)少子社会において、一人ひとりの子どもたちが健やかに発育できるよう、子どもを育てる父親と母親への支援の在り方を今後も考えていく」(同,3頁)としています。
頑張っているのに認められないのは、悲しいことです。
今後は「父親としての役割を果たせている」と、自信も持つことのできる方法も、考えていく必要がありそうですね。
※この記事は
白坂 真紀 ,越田 繁樹 ,桑田 弘美 (2017)「NICUを退院した子どもの子育てに関する両親へのアンケート調査」『滋賀医科大学雑誌』30巻,p.1 – 5をもとにしています。
※そのほかの参考文献
小泉武宣(2000)「ハイリスク家庭への周産期からの援助に関する研究」厚生科学研究,虐待の予防、早期発見及び再発防止に向けた地域における連携体制の構築に関する研究,平成11年度研究報告書,2000