前編では、日本財団ボランティアサポートセンターが東京オリンピック・パラリンピックにむけて、ボランティア研修や企業研修を行っていることをお話いただきました。
『東京オリンピックで日本のボランティア文化をつくる』【前編】
後編では東京オリンピック・パラリンピックの後のために、どのようなことをされていらっしゃるのかを伺っていきます。
日本財団ボランティアサポートセンターの沢渡一登さんときふる編集部
2020年を転換期に
——どうして日本財団ボランティアサポートセンター(ボラサポ)では、ここまでオリンピックボランティアの育成に力を注いでいるのでしょうか。
ボラサポが東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下:組織委員会)を支援する理由の1つはレガシーだと思っています。
大会に向けて、11万人のボランティアに研修プログラムを提供することができます。
この研修を受けたボランティアが活躍し、オリンピック・パラリンピックを成功させることはとても大切です。
けど、11万人のボランティアが、大会が終わって解散というのも、もったいないですよね。
オリンピック・パラリンピックのあとも、ボランティアを継続するとか、社会課題の解決に積極的に関わってもらうとか、そんな人たちになってもらいたいと思っています。
日本のボランティア文化を作っていく、という意味で東京オリンピック・パラリンピックは転換期にあると思っています。
楽しむものとしてのボランティア
——-これまでボランティアが盛り上がるきっかけって、震災とかネガティブなものが多かったじゃないですか。けれど東京オリンピック・パラリンピックはネガティブなものではないので、参加する方もまた少し違ってくるのでしょうか?
大きく違ってくると思います。
一般的には、ボランティアは困っている人を助ける「奉仕」のイメージが強いかもしれません。
災害ボランティアはその代表例ですね。
一方で、東京オリンピック・パラリンピックのボランティアには「ボランティア自身が楽しむ」という側面があります。
自分のためにやるんです。
本来はそれも含めてボランティアと言うんですが、日本はまだ奉仕の色が強いですね。
——-たしかに、ボランティアにはいろんな動機があります。災害ボランティアも楽しんでやっている人はいますよね。
スーパーボランティアとして話題になった尾畠春夫さんだって、ボランティアは楽しいと感じているのではないでしょうか。
「奉仕」も「楽しい」も、両方大事だと思います。
いろんな人と出会えるのが楽しいから、とボランティアをするために、世界中のオリンピック・パラリンピックを巡っている方もいるんですよ。
先ほど「ボランティアの2割が海外からの方」とお話しましたが、なかにはそういう方もいるんです。
参考:『東京オリンピックで日本のボランティア文化をつくる』【前編】
積極的に助け合える社会になる
——-これまでのオリンピック・パラリンピックボランティアで、上手くいったもの、上手くいかなかったものとはどういうものなんでしょう。
ロンドン大会が成功例とされています。
大会自体の成功もありますが、大会以後もボランティアレガシーが残っていることが素晴らしいと思います。
ロンドン大会のボランティア情報を引き継いだ団体があり、今でも10万人の会員のうち、3万人が1年に1回以上のボランティア活動に参加しているそうです。
ロンドンでは、2017年に世界パラ陸上選手権大会がありました。
2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックにボランティアとして参加した人達が、再びボランティアとして参加し大会を成功に導きました。
大切なのは、大会の成功は言わずもがな、先のことも見据えているかどうかですね。
ロンドンはシドニー大会を参考にしたそうですが、シドニーは、ボランティア文化をレガシーとして残せなかったことが課題として挙げられていました。
東京オリンピック・パラリンピックでは、ロンドンのようにボランティア文化を残していけたらと思っています。
いまネットを中心にネガティブな話も多いですが「ボランティア文化をレガシーとして残していく」という意味で考えると、そこまで大きな反対はないのかな、と思っています。
——-どうしても視野が狭くなってしまいますよね。中長期的な視点でみると、そんなに騒ぎ立てるものではないかなと思います。
ボランティアは自発的に取り組むものですから。
やりたくない人が、やりたい人の足を引っ張ってしまうことは避けたいですね。
レガシーを作っていく、ということが目標にあるので、学生やシニアだけでなく社会人にこそ、そして東京だけでなく全国の方にボランティアに参加してもらいたいと思っています。
研修のなかで重要になるのは、「ダイバーシティ&インクルージョン」。
いかに多様性を理解するか、です。
困っている人がいれば声をかけられるようになるとか、一人ひとりが行動を起こすことで社会が変わっていくと思っています。
いま目の前に視覚障害の方がいても、どうやって声をかければいいのかわからない、という方が多いですよね。
そんな方が、最初の一歩を踏み出すことができるようになることが、研修の役割だと思います。
研修では、オリンピック・パラリンピックの歴史も学びますが、それ覚えることが目的ではありません。
気づきを得て、自発的に動けるようになることを大切にしています。
あるCMがパラリンピックの概念を変えた
日本財団は、パラリンピックの支援もおこなっています。
ボランティアとパラリンピック、どちらも成功させることが、2020年東京オリンピック・パラリンピックの成功だと思います。
——-オリンピック・パラリンピックの成功とは何ですか?
一つはパラリンピックの会場が満員になることです。
「Channel4」というイギリスの放送局が、あるCMを作ったんです。
これが、これまでのパラリンピックの概念を変えたといわれています。
We’re The Superhumans | Rio Paralympics 2016 Trailer
私も当時ロンドンにいたんですが、このCMをみて心をゆさぶられました。
これをみた多くの人がパラリンピックに興味をもって、会場が満員になりました。
パラリンピックの成功は、多様性の理解を促進させ、共生社会の実現にもつながります。
新しいボランティアの可能性
——-大会が終わった後のことも考えていらっしゃるんですね。
そうですね。
ボランティアしたい人とボランティアをしてもらいたい人をマッチングすることができれば面白いですね。
いまもボランティア情報サイトはありますが、もっと踏み込んだ仕組みを作れないかとも考えます。
例えばUber(運転する人としてもらいたい人のマッチングサービス)なんて社会を変えていますね。
いまボランティアって、団体が募集して個人が申し込んで、となっていますが、究極的には個人対個人になるのかな、と。
「引っ越しするから手伝って!」と言ったら友達が手伝ってくれるように「洪水で水浸しになったから家具運ぶの手伝って!」と言ったら誰かが来てくれるような。
そこで有償・無償を選べるようになってもいいですよね。
相互扶助の仕組みがいままでは阿吽の呼吸でできていたのかもしれませんが、今はだんだんと住民の地域性が薄くなってきています。
一方でテクノロジーは、どんどん進化しています。テクノロジーが、それを補ってくれるかもしれません。
感謝する仕組みづくり
——-ボランティアを集めるために、何が必要だと思いますか?
私はボランティアも寄付も、一緒だと思っています。
寄付では、依頼して、お礼して、再依頼する、というサイクルがあります。
ボランティアも、依頼して、お礼して、再依頼することが重要です。
過去のオリンピック・パラリンピックでは閉会式のスピーチの中で、必ずボランティアへの感謝の言葉がおくられます。
ロンドンオリンピックのスピーチでは、スタンディングオベーションが起きたんです。観客もボランティアの活躍を称えてくれたんですね。
しかもロンドンオリンピックは、終わった後に首相から一人ひとりに手紙が届いたんですって。
それだけ「ボランティアのおかげで成功した」と言われると、嫌な気分はしませんよね。
ボランティアも「やってよかった!また、やってみよう!」と思えます。
こんな風に、感謝する仕組みがあると、リピーターも出てくるんですよね。
些細なことからもしれませんが、「ありがとう」の一言が、日本にボランティア文化を作るためのポイントだと思っています。
——-沢渡さん、ありがとうございました。
編集後記
東京オリンピック・パラリンピックをめぐって、ネット上ではさまざまな議論が起こっています。
今回、筆者はその事実を知った上でお話を伺いに行きました。
けれども、どんな人でも平等に研修を受けることができて、さらにそしてその後のことも設計するというのは、ボランティアについて真剣に考えていなければできないことだと思います。
阪神淡路大震災のあった1995年はボランティア元年、東日本大震災のあった2011年は寄付元年と言われています。
2020年は一体、なんの元年になるのでしょうか。
これまで日本のボランティア界は、大震災という悲しい出来事を契機に成長してきました。
世界中が注目する東京オリンピック・パラリンピック。
今度は明るく、楽しいことから、新たなムーブメントがうまれていってほしいですね。
前半の記事はこちらから
『東京オリンピックで日本のボランティア文化をつくる』【前編】