「人生の節目に、大切な人に漆器を贈る文化」を。“漆”で伝統文化と家族のつながりを紡ぐ。

「人生の節目に、大切な人に漆器を贈る文化」を。“漆”で伝統文化と家族のつながりを紡ぐ。

福島県会津若松市で「漆とロック」という会社の代表をしている貝沼 航(かいぬま わたる)さんは、25歳の時に起業して以来、漆や漆器の魅力を伝えていく活動を13年間に渡って続けています。この度、日本の基層文化と言える”漆器のある暮らし”を未来に繋いでいくため、「漆結い(うるしゆい)プロジェクト」を立ち上げました。

人生の節目で、古より日本人にゆかりのある漆器を通して、大切な人とのご縁を結ぶ。祝福や感謝の思いを乗せて、人生を共にする器を贈り合う。そんな思いやりのある文化をもう一度日本に作るため、今回クラウドファンディングで資金を募っています。この取り組みを立ち上げる背景や、活動に対する想いを聞きました。(聞き手・READYFOR)

漆プロジェクト01

漆器の職人さんそれぞれのこだわりや隠れたイッピンを知っているのが貝沼さんの強み

——今回、挑戦しているクラウドファンディングについて、どういったことを実現しようとしているのか教えてください。

貝沼:今回僕が実現したいことは、「人生の節目に、大切な人に漆器を贈る文化」を作り、広げることです。

漆は縄文時代から使われてきた素材です。その美しさと丈夫さで、古来より身近な暮らしの中にあったものでした。漆器は、全て自然のもので作られます。木のぬくもりの上に、しっとりと深みのある漆が塗り重ねられることで、人肌のような優しさをまとい、手のひらに包んだ時に、ほっとする安心感を与えてくれます。器に描かれた蒔絵(まきえ)の多くは伝統的な吉祥文様、そこには様々な願いや祈りが込められています。そして、お直しをしながら長く使い続けていくことのできる器です。

このように漆器は、きちんと知っていくと、特別な思いを込めて誰かに贈りたくなる、そんな器なんです。そしてなにより「食べることは、生きること」。器は、生きることの中心に長く寄り添う存在です。

そこで、私たちは、人生の節目に、漆の器に思いを込めて、大切な人とのご縁を結ぶこと。それを“漆結い(うるしゆい)”と名付けて、日本に、将来は世界まで広めていきたいと考え、今回の挑戦を決意しました。大切な人の門出を祝福したり、感謝を込めて器を贈り合う、そんな思いやりのある文化を作りたいと考えています。

 

——貝沼さんが漆器の伝統文化を伝える、現在の活動を始めたきっかけを教えてください。

貝沼:僕自身この活動を始める上で起業したのは25歳のときです。もともと実家が漆を育てていたわけでも、漆器を作っていたわけでもありません。それどころか、出身も会津ではないですし、いわば全くの門外漢の人間でした。

たまたま仕事の一環で、漆器の工房に訪れることがあり、漆を単なる「モノ」としては見るのではなく、それをどう捉え活用していけるのか、という面白さに出会ってしまったこと、そして漆器の職人に感銘を受けたことが原体験となり、漆や漆器を伝える活動を始めました。

 

——もともと漆業界とは関係ないところにいた、ということですが、そもそもなぜ会津若松で仕事をしていたのでしょうか?

貝沼:もともと僕自身東京の大学にいて、東京で仕事をしたいと思っていたのですが、新卒当時たまたまご縁があったのが会津若松の会社でした。そこでコンサルとして、様々な企業のサポートがしたいという気持ちで飛び込んだのですが、本音を言うと、最初は「田舎に行く」というネガティブなイメージを持っていたことは否めません。

今でこそ「地方創生」という言葉や「Iターン」などと言う言葉も流行っていますが、当時はそんな世間の風潮もなかったので、少ししたら東京に戻って友人とカフェを開こうなどとも考えている時期もありました(笑)。なので、正直に話すと、最初は田舎での仕事は、いやいやでした(笑)。

でも、漆に出会ってその思いは一変していきます。この土地に誇るべき工芸品があるということは、その土地の積み重ねてきた歴史であったり、文化であったり、自然環境であったり、そういったものが残っているということです。それに、今でもそれを生業としている人がいることを、漆器を通じて知れたことは僕にとってとても幸せなことでした。そのおかげで今はもう、会津が大好きです(笑)。漆器と出会って、若い頃の自分がただの田舎だと思っていたこのまちに、実はこれだけ惹かれるものがあったことには、自分自身驚きでした。

漆プロジェクト02

「職人さんたちから沢山のことを教えていただいて今がある」と貝沼さんは話します

——貝沼さんは「めぐる」という漆器ブランドを展開していますが、今まで、どういった方が漆器を買い、応援してくださっているのでしょうか?

貝沼:弊社の商品は本格的な作りの漆器で、価格も決して安くないものですが、若い世代から幅広く迎え入れていただいているのが特徴だと思います。それは、商品が生まれるまでのプロセスや自然との繋がり、食卓で使う良さを丁寧に伝えているからだと思います。そして、買ってくださった方は皆さん、「漆器は普段使いできないイメージがあったが、実際に家庭の中で使うとこんなに気持ちよかったんだ」「暮らしが以前より丁寧になった」と言うコメントを多く寄せていただいています。

今回のクラウドファンディングでご支援いただいている方もそうなのですが、一度漆器を買ってくださった方は、その後も継続的に繋がっている方が多いです。その理由としては、漆器に込めた私たちのコンセプトに共感いただいたことが大きかったと考えています。「漆器の本質的な魅力を真っ直ぐ引き出し、その意味を丁寧に伝えていく」ということを「めぐる」は大事にしているので、それを受け止めていただいた方が仲間になってくださっているという印象を受けています。

漆器を使ってもらって良さを実感してもらうこと、そして、その方たちがさらにその輪を広げていくという循環が大事だと思っていて、今回はそのつながりを広げるために”漆結い”というプロジェクトを立ち上げて、クラウドファンディングに挑戦しています。

漆プロジェクト03

漆プロジェクト04クラウドファンディングでは、これまでの繋がりの信頼関係が見えるコメントが寄せられています。

——「漆」という伝統を残していく上で、貝沼さん自身が考える課題とはなんでしょうか?

貝沼:「伝統は本当に残すべきか?」という議論は、どの時代でもあると思います。しかし、僕自身は、伝統を「残すべき」とも「守るべき」とも思っていません。なぜなら「べき」という義務感で文化は残らないし、それでは少々窮屈だからです。

「文化」は、昔から人の暮らしを豊かに、楽しく、美しくしてきたもののはずです。そして、それがそうあってきたからこそ続いていて、今となっては「伝統文化」と言われるのだと思います。そして「伝統」とは、時代に合わせてその姿を変えて革新を重ねてきたことそのもののプロセスをいうのであって、うん百年前からあることや、古さを競うのが伝統ではないはずです。

でも一方で、いわゆる伝統工芸の世界の片隅で現状を感じている身としては、今「まあ自然に残るんじゃない」とはとても言えませんし、現在の経済合理性の中で自然淘汰されるのを見ているだけではあまりに勿体ないものがたくさんあります。悲観的な義務でもなく、楽観的な放置でもない。本当の答えは、その間にある「愛情」や「愛着」のようなもの、つまり「できるだけ残って欲しい/なくなったら寂しい」という思いのように感じます。

自然に湧き上がる「ずっとあって欲しい」「なくなるとしたら寂しい」「人に広めたい・紹介したい」という思いを持つ人をどれだけ増やせるのか。そういう、愛着のバトンリレーがもう一度作れたらと思います。

——「愛着のバトンリレー」を通じて、今後も漆を未来へ繋いでいくために社会に期待することはありますか?

貝沼:もう一回素材から食卓まで生態系がちゃんと繋がった社会をもう一度作りたいと思います。漆器に限らずそれは大切なことだと考えています。大量生産・大量消費で合理的になった世の中だからこそ、丁寧さのようなものは淘汰されかけています。僕はそれをしっかり伝えていきたいと考えています。

漆プロジェクト05

——そうすると一層、貝沼さんの役割が重要になりますね。

貝沼:自分の仕事のど真ん中には「伝え手」であるという自覚があります。作り手と使い手を触媒する「伝え手」です。触媒して、繋いで、伝えるということを大事にやっていきたいですし、そういう自分でありたいです。

とはいえ、漆を知ることや使い始めるにあたって入り口の敷居が高くてもしょうがないと思っていますので、まずは「知ってもらう」というところがスタートライン。そこから、もう一度「みんなでそれを知ってみる」という楽しみも多くの人に伝えていきたいと思います。

 

——今回のクラウドファンディングのプロジェクトを見てくれている支援者様へ一言お願いします。

貝沼;数えてみたところ、人は一生で約8万回の食事をする計算になります。食べるものや一緒に食べる人は人生のステージでその都度変わっていくものではありますが、そこにずっと長く寄り添っているのが「器」なんです。「生きることは食べること」とよく言いますが、食べることの記憶やそこにある家族との繋がりを見守っているのが器という存在ではないかと思っています。

だから、8万回のお伴は、安いものを使い捨てではなく、いいものを長く使っていきたいですよね。

このクラウドファンディングに挑戦する過程で、「自分の子どもが中学生になった時から毎年一つずつ漆器を買ってあげていて、この家を出る時がきたらその器を一式持たせようと思っている」という方や、「自分の母親が亡くなったときに、棺に母の愛用の食器を入れた」という方に出会いました。まさにそういうことが”漆結い”そのものだなと思いました。

祝福や感謝の思いを乗せて、人生を共にする器を贈り合う。そんな思いやりのある文化をもう一度日本に作るため、ぜひ、このクラウドファンディングを通じて多くの方に応援していただきたいです。

漆プロジェクト06

貝沼さんの挑戦するクラウドファンディングは、5月31日23時まで!
目標金額300万円以上の支援金が集まった場合のみ成立となるAll or Nohing方式での挑戦です。ぜひ、下記よりプロジェクトをご覧ください。https://readyfor.jp/projects/urushiyui

 

 

 

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