「障害者雇用を考える」シリーズ、第一弾は文字起こしサービス「OKOSHI」。
世の中に文字起こしサービスはいくつかありますが、OKOSHIはただ音声を文字にしてくれるだけでなく、社会にとってもいい仕組みなんだとか?
今回はNPO法人モンキーマジック職員であり、OKOSHI事業責任者の水谷理(みずたにおさむ)さんにお話を伺いました。
障害者クライミング普及活動を通じて、多様性を認め合えるユニバーサルな社会の実現を目指すNPO法人モンキーマジック。
「多様性理解」をキーワードとし、視覚障害に限らず、身体・精神・知的障害、外国人、高齢者など、様々な人が活動に参加できるのが特徴です。
OKOSHIとは
——–まずOKOSHIとは、どのようなものなのでしょうか?
水谷 インタビューや会議音声など、あらゆる音声データを文字に起こす、テキスト化するという事業です。
もちろん、わたし自身がパソコンに向き合ってタイピングをしているのではなくて、全国にいらっしゃる在宅就業、リモートワークで働く方が文字起こしをしています。
OKOSHIのビジネスモデル
働く選択肢を広げる
——–文字起こしサービスはほかにもいくつかあるかと思いますが、その中でもOKOSHIの特徴はなんでしょうか?
水谷 在宅にならざるを得ない方や、障害があるのでなるべく家で働きたい、という人に特化した形で事業を展開しています。
例えば
・子育て中の方
・介護中の方
・車椅子ユーザーの方
・視覚障害者
など、ほかにも在宅にならざるを得ない方や、性格上一人きりで自分の安心する環境で仕事がしたい方、働く選択肢が狭まれてしまっている人を対象としています。
——–働く選択肢が狭まれてしまっている人とは、具体的にどのような状況に置かれているのでしょうか?
水谷 まず障害のある方の場合をお話しましょう。
障害者はアルバイトとして職を得にくいという状況があります。
今でこそ、たとえばスターバックスでは耳が聞こえない・聞こえづらい聾(ろう)の方もアルバイトとして積極的に雇っていますが、車椅子の方がコンビニでレジ打ちをしているのを見たことはがある人は少ないと思います。
実際に見えるところでは、まだまだ障害者のスムーズな雇用というのは現実的ではないんです。
水谷 様々な方へ働く機会を提供したい、というのが私たちの目的の1つです。
障害者だけでなく介護や子育て中の方の場合。電車や車で職場まで行って、4~5時間働いて、そして戻ってきて……といった移動のコストを省いて家で働けられるようになれば、その選択肢の一つになればと考えています。
とはいえ、文字起こし自体は誰でもできるものではなく、トレーニングや適性が必要なのですが、なるべくハードルの低い状態でチャレンジできる環境、きっかけを提供しています。
障壁の有無を問わず、同じ条件で稼ごう
水谷 タイピストさんはいま挙げた人たちだけではありません。
ほかにも、あと1万円稼ぎたくて副業したい方や、旅行しながら稼ぎたい方とか。
分け隔てなく活躍できる場所を提供したいと思っています。
我々のミッションは「障壁の有無を問わず、同じ条件で稼ごう」
ここでいう「障壁」は、障害があるないだけでなく、地域差も含まれています。
我々の文字起こしの場合、1時間の音声を6時間で文字起こしできれば、案件によっては時給換算で1200円位になります。
同条件のアルバイトは、都内であれば見つかりますが、地域によっては時給1000円も相当良い条件ではないでしょうか。
ここに、地域の差があります。
タイピストは、パソコンを扱えることがでいれば、まずは挑戦ができます。いままで経済活動に参加しづらかった方々が参加しやすくなる環境を作る、というのが私たちの大きな目的です。
ただし誰でもできる仕事ではない
水谷 ただ、何事にも向き不向きがあるように、誰にとっても文字起こしが簡単な仕事という意味ではありません。
依頼内容のなかには、専門用語ばかりが飛び交う会議音声データの場合もあります。根気よく繰り返し聞いて、言葉の意味をひとつひとつ調べて作業を行わなければなりません。
流行り言葉や新しい言葉、同音異義語も正確に書き起こす必要があります。日々情報に触れたり国語力を磨いたり、幅広く知識を蓄えていく意思や向上心がないとできません。
——–なるほど。「障害があるからできない」ではなく「機械が苦手だからできない」といった向き不向きレベルの話ですね。健常者だとしても人によって向かない仕事はたくさんありますよね。
どんな人も、働くために努力する
水谷 障害者雇用の会社を経営している視覚障害の方からきいた話があります。「健常者が就職活動に向けて資格を取ったり、マナーを覚えたり、採用試験のSPIの勉強をしたりと同様に、誰もが仕事に就くためには努力しなきゃいけないよね」と。
エンジニア、プログラマ、弁護士、といったトップオブトップの障害者もいます。
そして、働いてはいるけれど、課長や部長や取締役にはなれない、中間層にあたる人たちもいる。
その中間層の方々のプラスアルファの収入や経験として、OKOSHIは役に立つと思っています。
なくなる仕事というのはわかっている
水谷 いまは在宅就業支援団体認定を受けることを目指しています。
一定数の障害者に仕事を提供していると厚生労働省から認められると、さらに安定的な受注を目指せる、というのものです。
けれども、文字起こしはあと5〜10年すればなくなる仕事だろうとも考えています。斜陽産業といえるかもしれませんが、そこに全く悲観はしておらず、準備していることがいくつかあります。
おぼろげながらも「何かできそう!」
水谷 まずは全国でネットワークを作ること。
地域差問わずネットワーク化することで、新しい何かを生み出せるのではないか、と予測をしています。
たとえば100人の若者が集まったり、100人の働く女性が集まったら、それだけで「何か新しいことができそう!」思える感覚と一緒で。
100人障害者の仲間がいたら「何か新しいことができそうだよね!」と。
それも、都心だけでなく、全国各地に仲間を増やしたほうが、パワーはあると思っています。
成長の踏み台として使ってほしい
水谷 そして我々OKOSHIは、将来的には文字起こし事業1本でやっていこうと思っていません。
パソコンが使えなかった人が使えるようになって、時給1200円位稼げるタイピストになった、だったら次はもっと単価の高いプログラミングを勉強してみようとか、編集者に挑戦してみようとか。
我々を成長の踏み台として使ってほしいんです。
新しいものに取り組んでいこう、成長していこう、というときのファーストステップと考えています。
本当の意味での「障壁の有無にかかわらず」をめざして
水谷 「障壁の有無にかかわらず同じ条件で稼ごう」と言っているものの、まだまだすべての人はカバーできていません。
聴覚に障害のある方に関わっていただけるよう文字情報を扱う翻訳事業などを行いたいし、いずれは夢は海外にも目を向けたい。
あらゆる人たちが関わることのできるように事業を拡大していきたいと思っています。
——-なるほど。全ての人が働くことのできる仕組みをつくっていくんですね。
「社会課題の解決」という、新しい強みを
——–OKOSHIが広まっていくことで、どう社会は変わっていくとお考えですか?
水谷 受発注が行われている日々の経済活動の中で、実は今まで働くことができなかった人たちが担うようになれば、それだけで価値だと考えています。
ある企業の外部への発注が、実は社会課題の解決につながっている。
同業他社はそれぞれ、安い・早いなどそれぞれの強みがありますが、その中で「社会課題の解決」という、新しい強みを出していけたらと思います。
OKOSHIを通して、当たり前の社会をつくる
水谷 会社がうまくいっているときはいいけれども、会社がうまくいかなくなったときはどうしよう……と、残念ながら障害者雇用をリスクと捉える経営者もいると思います。
我々を通して「これまで働きたくても働くことのできなかった人たちがいたんだよ」と社会の仕組みを知ってもらう。
そして、「どんな人でも働くことのできる仕組みは作れるんだよ」ということを知ってもらい、当たり前になっていく。
これが、僕らのゴールだと思っています。
さいごに
水谷さん、インタビューありがとうございました!
これまで働きたくても働くことのできなかった、働く選択肢が限られていた方々がタイピストとして活躍しているOKOSHI。
障害のある人だけでなく、子育てや介護中の人、はたまた旅行中の人など、多種多様な人たちに焦点を当てているのが非常に興味深いです。
LGBT、障害者、外国にルーツのある方、さまざまな場面で「ダイバーシティ(多様性)」「マイノリティ(少数派)」という言葉を耳にします。
けれども「マイノリティではない人達」は、そもそもいるのでしょうか?
その答えは水谷さんの「『多様な人』とはいっても健常者だって多種多様だと思う」という言葉に表れていると思います。
OKOSHIはNPO法人モンキーマジックによる事業です。
NPO法人モンキーマジックは、障害者クライミング普及活動を通じて、多様性を認め合えるユニバーサルな社会の実現を目指しています。
「多様性理解」をキーワードとし、視覚障害に限らず、身体・精神・知的障害、外国人、高齢者など、様々な人が活動に参加できるのが特徴です。
取り組みに共感した方は、寄付プラットフォーム「Syncble」にてNPO法人モンキーマジックを応援することができます。
障壁の有無にかかわらず、すべての人が生き生きと暮らす社会を作るために。
まずはあなたのできることから始めましょう。
今回お話してくださった水谷さん自身のお話はこちらの記事でも取り上げています。
また水谷 理さんTwitter(@osm_tweet)はこちらから