東海道のひとつ目の宿場町として、江戸時代に栄えた品川宿。
品川宿のあった北品川がいま、人と人がつながる場所として改めて注目されています。
なぜ北品川はこれだけの盛り上がりをみせるのか。
その秘密を読み解くために、きふるでは北品川の人々や団体、企業にインタビューをしていきます。
今回ご紹介するのは、北品川商店街にあるKAIDO books & coffee。
かつて旅人たちが集まっていた地域にあることから「旅に行きたくなるカフェ」をコンセプトとしています。
運営しているのは、歴史ある地域を維持するためのコンサルタントをしている株式会社しながわ街づくり計画。
会社の代表であり、カフェのオーナーである佐藤亮太さんにお話を伺いました。
はじまりは浅草の人力車
――――――佐藤さんがKAIDO books & coffeeを作ろうと思ったきっかけをお聞かせください。
佐藤さん(以下佐藤):僕はずっと 品川で育ってきました。
高校を卒業して浅草の人力車の会社に就職し、いつも浅草を案内していました。
浅草寺のちょうど裏のあたりに、かつての吉原遊郭があるんです。
そこから日本の文化がたくさん生まれてきました。
たとえば「指切りげんまん」とか「冷やかす」とか「ご愛想」という言葉は吉原で生まれました。
――――――文化の起源となっていたんですね。
佐藤:歴史的背景のある所を紹介していて、そのうち吉原散策ツアーなんかもできたりしました。
浅草で観光案内をしていて気が付いたことが、地元の人間はあまり地元の歴史を知らないということ。
僕は品川で生まれ育ちましたが、地元の歴史ってあんまり意識したことがなかったんです。
どんどん自分の育った北品川にも、かつて東海道の宿場町であったという歴史をもっていることを意識していきました。
「その歴史を伝えることで、その街が活気づけられないだろうか」というのが、KAIDO books & coffeeを運営する株式会社しながわ街づくり計画を立ち上げたきっかけです。
――――――たしかに地元の歴史って案外知らない人が多いですよね。
佐藤:その後「Hot Pepper」や「R25」といったフリーペーパーを発行していたリクルートに入社し、立ち上げや企画に5~6年携わりました。
そこでは人に魅力を伝えるための技術を身につけることができたと思います。
北品川の魅力を伝えていくことで、地域を活性化させていく。
そんな仕事がしたいと思い、10年前に起業しました。
フリーペーパーや冊子を作って街を発信し、地域を活性化させようと取り組んできました。
しかし、やり始めてから5~6年たった頃、なんか違うな?という感覚を覚えました。
――――――それはどういう意味ですか?
佐藤:街を活気づけるためにイベントの企画をしたし、冊子をつくって外に発信することもしてきました。
けれど、街のお店はどんどん潰れていって、いま街にあるもの自体なくなりつつあったんです。
店主の高齢化や跡継ぎがいない問題が、都市部だということもあって顕著にあらわれていました。
かつて10万人が集まっていたしながわ宿場まつりでさえ、いまは継続していくことの難しさに直面しています。
住みやすい街とはなにか?
佐藤:まちづくりをする会社として、どうやったらもっと住みよい街にできるかを考え始めました
そもそも住みやすいとはどういう意味なのか?
そこに住んでいる人にとってか、働いている人にとってなのか?から考えました。
僕たちは住みやすさについて、アンケート調査をしました。
結論として北品川にずっと暮らし続けたい、ずっと働きたいと思っている人とそうでない人の差は、人と人との関係性が出来ているかどうか。
自分と価値観の合う人が、住んでいる場所や働いている場所の近くにどれだけいるかだったのです。
インターネット上でも価値観は共有できます。
けれど、実際に顔を合わせてコミュニケーションをする場所が、その住みやすいと思う要因の一つであることが調査でわかりました。
つまり、この街で働きたい、住んでいきたいと思ってもらうためには、一つの価値観を「生む」というよりも、価値観を「育てる」場所が必要なんです。
「品川宿らしさ」という一つの価値
株式会社しながわ街づくり計画では、これまで企画やプロモーションといった、情報を発信していくことを得意としてきました。
しかし調査の結果、発信だけでなく価値観を共有する場が必要だとわかりました。
わたしたちは街づくりをする会社として、それができる場所を作ろうとなりました。
みんながの居心地がいい場所、そのひとつがカフェなんじゃないのか?と。
北品川は東海道品川宿という歴史ある街です。
だったら、品川宿らしくて、自分たちの街を誇りに思える。
そんな「品川宿らしさ」を感じることができるカフェにしようと思って作りました。
――――――具体的に品川宿らしさとはなんですか?
「KAIDO books & coffee」のテーマは「旅と街道」
この価値観を共有できる人たちが集まることで、みんなが居心地のいい場所になっていきます。
品川宿にはかつて全国各地から旅人が集まってくる場所でした。
今の品川も羽田空港が近いので、世界中から人が集まってきます。
今も昔も、品川は「旅の玄関口」なんです。
だったら、このお店も日本全国の情報と人が集まるカフェにしようと。
全国から集まった人が地元を自慢して、ここに来ると旅に出たくなる場所にしようとしたんです。
――――――行くと旅がしたくなるお店、なんだかいいですね
店内には、北海道から沖縄まで全国各地の歴史や土地のことが書いてある本を置いています。
これが実現できたのも、地元の商店街の古本屋さんがたまたまそういった本を集めていたからなんです。
品川っていろんな人が集まってくる場所で「おもしろいね」と思ってもらえるようなカフェ。
それが地域愛に繋がっていく、と思っています。
店舗1階。カフェは「旅と本」がコンセプトになっている。
KAIDO books & coffeeを利用する人々
――――――KAIDO books & coffeeを利用する方はどんな方が多いのでしょうか?
平日と土日祝日では客層が全然違ってきます。
土日祝日は30代半ばの女性が多いですね。
友達と一緒に、お茶をしにくるようです。
平日は親子連れが多くなります。
近くで働いている人がちょこっとサンドウィッチなんかを食べに来ますが、やっぱり地元の人がほとんどですね。
全体的に地元の方が多いと思いますが、OZmagazineやフリーペーパーに掲載されたりもするので、それを見ていらっしゃる方もいます。
――――――よく取り上げられるなんて、すごいですね。
やっぱり、本業は情報を発信することですからね。
1日平均80人くらいでしょうか。
リピートしてくれる方は非常に多いと思います。
――――――海外からのお客さんはいらっしゃいますか?
もちろんいらっしゃいますよ。
日によっては、お店の半分は外国からのお客さんが占めることもあります。
周りにホテルが多いのもあって、「地元の情報得るにはカフェに行ったらいい」なんて言われているそうです。
あとは近くに、外国人に人気の公道カート(MariCAR)乗り場があるので、その待合場所になったりしています。
――――――お店の階ごとにお客さんの違いはありますか?
解放的なほうがいいという方は1階を好みます。
外国からいらっしゃる方はほとんどそうですね。
仕事や作業をしたいという方は、静かな2階に行きますね
店舗2階。本棚には全国各地の歴史や土地にまつわる本が並ぶ。
――――――作業目的でいらっしゃる方もいるんですね。
結構いらっしゃいます。
ただし1杯で長居されてしまうとお店が回らなくなってしまうので、1時間半以上いる場合は2杯目を頼んでくださいねとお願いをしてあります。
――――――お店を運営するには必要なことですよね。
余裕のある空間からコミュニケーションは生まれる
――――――店内には学校の椅子のような椅子が採用されていますが、なにかインテリアでこだわっていることはありますか?
住んでいる人たちが、ふらっと入りやすくなるような空間作りを心掛けています。
ばっきばきできめっきめの、洗練されたお店はあえて作らないと言いますか。
「余裕を持ったスペース作り」がお店のコンセプトの一つです。
――――――余裕を持ったスペースは、どんなメリットがあるのでしょうか?
お店のスタッフとお客さんとのコミュニケーションが取りやすくなります。
お客さん同士で仲良くなることも、よくありますよ。
はじめに無駄に席数ばかり増やして、コミュニケーションがしにくくなるのはやめようと決めました。
もちろん、お店を維持するためにはある程度の席数がないといけないので、そことのバランスが難しいんですが。
――――――余裕からコミュニケーションがうまれるんですね
あとはベビーカーを押しているお母さんがきたとき。
動線が広くないとベビーカーを店内に置けません。
あるとき5台ほどベビーカーを押したママさんたちがやってきたんです。
でも、椅子をポンポンポンと積み重ねればすぐベビーカーを置く場所が出来あがります。
そんなフレキシブルで余白のある空間づくりを心がけています。
来るもの拒まずの宿場町文化
――――――佐藤さんが考える北品川の良さはなんでしょうか?
まず立地の良さですね。
品川駅から徒歩十数分にもかかわらず静かな住宅街というのは、宿場町だったという歴史ならではです。
そして人の良さもあります。
北品川の人たちは、新しいものを受け入れてくれやすいと感じますね。
――――――歴史ある街でありながら、保守的ではないんですね
決して保守的ではないですね。
宿場町だったので、全国から色々な人が集まってきた。
いろんなものを受け入れてきたという土地柄からか、「来るもの拒まず」なんです。
――――――宿場町のDNAなんでしょうかね。
だから僕らみたいな若い人間が何か新しいことやりたいっていっても、「やったらいいじゃん」みたいに言ってくれるんです。
そういう土地だからいろいろできたというのもありますし、これから新しい人たちが何かやりたいとなったときには、協力したいと思っています。
――――――いいですね。北品川を盛り上げるために、どんどん活躍してほしいです。
聞き手:明治学院大学社会学部社会学科3年生
鈴木敦子さん、三冨彩花さん
きふるについて
きふるでは、より良い社会を作るために尽力する人々の頭の中を分解していきます。
なぜその課題に向き合おうと思ったのか、なぜ寄付をするのかといった「想い」を伝え、共感を生み、支援の輪を広げていく。
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