知的障害者が先生になる、スポーツを通したマネジメント研修とは|障害者雇用を考える

知的障害者が先生になる、スポーツを通したマネジメント研修とは|障害者雇用を考える

障害者の雇用促進をはかる障害者雇用促進法が1960年に施行され、障害を持った方が働く姿を企業でも見かけるようになりました。

民間企業の法定雇用率2%が定められていましたが、2018年4月に2.3%へと引き上げられ、障害者雇用は企業にとって避けては通れない話題になってきています。
しかし残念ながら、未だに障害者雇用をリスクと考えている企業も少なくありません。

障害を持った社員が企業において活躍するために、必要な仕組みや考え方とはどのようなものなのでしょうか?

今回お話を伺ったのは、知的障害者マラソン伴走家として活躍する磯野茂さん。
伴走家としての経験から得た、コミュニケーション方法、ダイバーシティとインクルージョンをテーマとした講演・研修プログラムを行っています。

走っている磯野さん


磯野さんの他の記事はこちらをご覧ください。

「縦の関係から横の関係に」知的障害者マラソン”伴走家”インタビュー

パラリンピックとは違う?知的障害者スポーツならではの問題とは

障がい者雇用の現状

「パラリンピック選手を雇用したい」

 

えってぃー
えってぃー

いま、障害者雇用はどうなっているのでしょうか?


磯野:障害者を雇用したいという企業のニーズが高まっています。
さらにいうと、雇う障害者はパラリンピックに出られる障害者アスリートがいいという声が増えています。
「当社はパラリンピック選手を採用していて、さらにパラリンピックでメダルをとりました」とPRになりますからね。

私の友人に、車いすソフトボールの選手がいます。
彼はプロの選手なんだけれど、車いすソフトボールはパラリンピック種目にはなく、世界的な公式大会もあまり目立たない。
だから、彼が就職先を探しているときは、とても苦労をされたそうです。

障害のある社員のマネジメントができない

磯野:なかには、障害のある社員をマネジメントできる上司がいない企業もあるそうです。
すると、障害のある社員の管理は外部の会社へアウトソーシングする、ということが起きます。

他にも、障害者を採用したとしても、「障害のある社員のために仕事をカスタマイズするのにはコストがかかる」と考えてしまうことさえある。

 

えってぃー
えってぃー

それでは障害者雇用促進法で定められている法定雇用率を守るために、給料をだしているように見えますね。


磯野:「会社に来なくても給料は払うから、うちの社員でいてください。さらに企業の宣伝のためにパラリンピックで活躍してください」と。
残念ながらそこには「障がいがある人ない人関わらず一緒に働きましょう」というのとは別の目的があります。

 

えってぃー
えってぃー

本来あるべき障害者雇用の姿ではなくなってしまっていると感じます。


磯野:たしかにこれは本来の姿ではない。
けれど私は、これもアリだと思っています。

やり方はどうであれ、障害者が企業で働くことができる、障害者が社会から注目されるというのは良いこと。
いまはまだいびつなこともあるかもしれないけれど、だんだんよくなっていけばいいじゃないかと思っています。
どんな形でもいいから障害者と関わって、徐々に一緒に働くことができる環境をつくっていけたらいい。
時間はかかるかもしれないけれどね。

出会った知的障害のある人たちは「先生」だった

磯野:私はランニングを通じて知的障害のある人たちの自律と社会参加を応援する「伴走家」として活動しています。
知的障害のある人たちと関わることで、私自身の普段の生活・仕事でもあらゆる人とのコミュニケーションの取り方が大きく変わりました。
そして、私は企業研修の講師・プロデューサーとしての実務経験があります。

この企業研修とスポーツの経験を掛け合わせて「コミュニケーションがうまくできる人やチームを社内に養成しましょう」という研修を提案しています。

障害のある人達と関わることで、教わることはたくさんある。
障害者を雇用することは、会社にとってコストではなくメリット・ベネフィットなんですよ、ということを伝えたい。

 

えってぃー
えってぃー

以前のインタビュー(「縦の関係から横の関係に」知的障害者マラソン”伴走家”インタビュー)で磯野さんは障害者と関わっていくうちに、どういう伝え方をすればきちんと伝わるのかと考えるようになったと、そして障害者に通じることは健常者にも通じることだとお話されていましたね。

磯野:そうです。わたしの出会った知的障害のある人たちはみんなコミュニケーションの「先生」でした。

これは企業でも通じること。
障害のある人と関わることで、コミュニケーションの取り方が変わっていく。
障害のある人がいることによって、職場の雰囲気や考え方、新しい発想や工夫がうまれる
これは会社にとって良いことだと思います。

現時点では企業において、法定雇用率を遵守する、パラリンピックで活躍して会社をアピールしてもらう、というのが注目され関心が寄せられています。
けれど、そのほかにも会社にとってプラスになるものはあるんだよってことを伝えていきたいと思っています。

管理職向け社内研修「DIGS」とはどんなものか

 

えってぃー
えってぃー

いま考えていらっしゃる、知的障害者を先生役とした企業向けの研修とはどのようなものなのでしょうか?


磯野:Diversity & Inclusion GamesDIGS)のことですね。

これは、スポーツを通して、ダイバーシティ、インクルージョン、さらにはマネジメント、リーダーシップを体感するワークショップを管理職クラスの人たちに行います。

実際の研修は簡単なものです。
障害者(先生)と健常者(研修生)の5~6人の混成チームを作って、スポーツ・共同作業をしてもらいます。

例えば、ボール投げや50メートル走、8の字走、バトンリレーといった7種目の運動会のような競技を用意します。
これを健常者(研修生)障害者(先生)が協力し合って、全員でクリアしてもらいます。
競技はもちろん、道具を並べたり設置したり、後片付けをしたりといったことも一緒にやってもらいます。
誰がゴールテープを持つ?誰がスタートの合図をする?といった競技役員の役割まで担っていただき、全員で役割分担・やり方を考えてもらうんです。

 

えってぃー
えってぃー

ただ競技をするだけでなく、運営や準備もチームで行うんですね。

磯野:一緒に進めていくうちに、なかなか指示が通らないとか、ルールを理解してもらえないとか、コミュニケーションの不一致が必ず生じます。
想定外のことが起きたとき、どうやって乗り越えるかがこの研修の大事なところです。

もちろん、それだけで学びを得ることは難しいので、ハーフタイムの時間などに私が「ここまでやってみてどうでした?次にもっと良くするにはどうすればいいと思いますか?」と振り返り・作戦会議のファシリテートをし、ディスカッションを行います。
「例えばこういう関わり方はどうでしょう?」と選択肢を示したり、「いま起こったことはこういうことかもしれませんね」と助言をすることもあります。

私はずっとスポーツの領域にいたので運動会にしましたが、一つの目的をもってゴールを目指すものであれば文化的なプログラムでもなんでもいいんです。
ただ運動会をやって、「楽しかったね」という感想で終わってはいけません。

どうやったら理解してもらえるか

 

えってぃー
えってぃー

何かゴール設定をして全員でやりきるというのは、ビジネスにも当てはまることですよね。


磯野:それと研修の初めに、絶対にやってはいけないルールを伝えます。
それは「強制」。
無理やり走らせる、強引に引っ張るのは絶対にしてはいけません。

 

えってぃー
えってぃー

あくまで理解させて自主的にしてもらうことが大事なんですね。


磯野:例えば、8の字走のルールを言葉で理解させるのが難しいとわかった。
そうしたら、他の方法でどうやって伝えることができるかを考えます。
きっと、図や目印で表すとか、身振りで説明するとか、腕を組んで一緒に練習してみるとか、言葉以外で伝える方法はいくらでもあるはずです。

磯野氏&アスリート

知的障害のあるアスリートに、横でルールを教える磯野氏

 

えってぃー
えってぃー

相手にとって一番伝わるのはどんな方法かをみつけるんですね。


磯野:これは日常の職場でのコミュニケーションでも大事なこと。
仕事をしていると、相手に伝えたいことが上手く伝わらないことがあると思います。
そうなったとき、その人にはどうやったら伝わりやすいのかを考える。
障害者と一緒に働くときはもちろん、健常者と一緒に働く場合でも、必要なスキルです。

 

えってぃー
えってぃー

仕事だと難しい仕事を教えるとき、先にやって見せるとか、横についてあげるとかありますよね。ただ座って研修を受けるよりも、ずっと楽しそうな研修ですね。

目的を見直しゴールを再設定する

磯野:どうやったらゴールできるかを考えても考えても、どうしてもゴールは難しそうだというときがあります。
そんな時は、ルールを変えてしまうのもひとつの手です。

例えば100メートル走りきるのがはじめのゴール設定だったけれど、体力的にメンバーの一人が50メートルしか走れないとわかった。
そういう時は、ゴールを50メートルにすればいいんです。

もちろん楽をするという意味ではありません。
みんなで一緒に走って、ゴールしたという全力を出し切った達成感をわかちあうのが目的であるのなら、100メートルである必要はないんじゃない?じゃあ、50メートルにしようと、目標を再設定し、みんなで合意するんです。

 

えってぃー
えってぃー

ゴールの意味を振り返ったうえで、新しいルールを決めるんですね


磯野:200メートル走ることができる人がいるのなら、彼が50メートル走る間に、その走れる人が往復して彼より多く走る、なんてルールを作ったり作戦を変えてもいい。
大切なのは、どんな人がメンバーにいても、その人の持ち味やスキルを理解しあって、全員でひとつの目標を達成するために役割分担をすること。みんなが公正平等にきめたものを成し遂げることです。
そのためには、ルールを変えたって構わない。

お互いが認め合う関係になる

 

えってぃー
えってぃー

ルールを変えるというのは、実際の会社だとどういうものになるのでしょうか


磯野:企業の場合だと、企業は売り上げ目標を追い求めているから、全体の売り上げ目標をさげるということはできませんね。

そうなると、能力的に見ると、ある人の目標は他の人の半分かもしれない。
しかし、それが彼の全力なのだから、「彼は他の人の目標の半分しか達成できないんだ」と思ってはいけない。
「彼の全力は他の人の半分の量的な結果。それはそれでいいよ認めてあげよう。じゃあ、足りない分はみんなで協力してカバーするよ」という気持ちになってほしい。
「ずるい」ではなくって、「どうやったらカバーできるかな」と思考を変えてほしいんです。

「だれがカバーするの?」と押し付けあっていたら、彼は「お荷物」、いらないよねとなってしまう。
そんな押し付けあうくらいなら、みんなでカバーしようとなったほうが建設的ですよね。

 

えってぃー
えってぃー

たしかに批判するくらいなら、どうやってチームで目標をクリアするか考えたほうが全体の雰囲気もよくなりそうです。


磯野:もしかしたら、確かにお荷物になることだってあるかもしれない。
そうなったとしても、彼はほかのことで活躍できるかもしれない。
例えば、持ち前の明るさで、他のメンバーのモチベーションを高めてくれるとか、直接売り上げには関わらないかもしれないけれど、気持ちの面で貢献してくれるかもしれない。
「彼がいるから、ほかのメンバーが加速できる」ということが、何かしら必ずあるはずなんです。

そういった、「ずるい」「できない」と思ったり見たりするのではなくって、お互い認め合う、役割を分け与え合う発想になってほしいんです。

 

えってぃー
えってぃー

どんな人であってもできるようになるにはどうすればいいのか?を考えるわけですからね。知的障害に限らず、身体障害、幼児や高齢者なんかが混ざっても面白そうです。

一人ひとりが能力を発揮するために

磯野:この研修で伝えたいことは

  • 人は一人ひとり違う
  • 全員参加で目標を達成する
  • 個々のメンバーのスキルを把握する
  • メンバー全員が納得する役割と構成を考える
  • 援助、協力の方法を考える
  • チームワーク、モチベーションを高める

これらは一般的な職場でも大事なことです。
頭では理解していても、実行することは簡単ではありません。
それを障害者×スポーツという条件下でやることで、日常にない気づきを得る場ができます。

 

えってぃー
えってぃー

まさしく一人ひとりが能力を発揮するにはどうすればいいのかを常に考えている管理職たち向けの研修プログラムですね。


磯野:もちろん、先生役となる障害者の方たちにとっても良いことがあります。
いろんな人たちと関わることは、社会参加のきっかけとなる。
そして彼らは「先生」だから、クライアントから報酬を受け取ることができる。
これは彼らの自律をさらに促します。

 

えってぃー
えってぃー

障害者の家族視点でいまの話を聞いていて、これまで支援される側だった障害者が、与える側になるのはとても意味のあることだと思います。ほんの少しでもお給料を稼げるようになるってすごく嬉しいんですよ。


磯野:障害のある人達と関わることで、こちらが教わることはたくさんあります。

これからは障害者に限らず、母国語や文化・宗教などが異なる外国籍の人などもたくさん職場に入ってきます。
これまでの手法ではうまくいかないことが起きたとき、それをリスクやコストと考えるのではなくチャンスと考える

障害者雇用はコストではなくって、会社にとってプラスになるものはあることを、研修やスポーツ活動という形で伝えていくことができればと思っています。

 

えってぃー
えってぃー

次は研修を受けた人や、先生になった方の声も聞いてみたいです。ありがとうございました。

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