今回ご紹介するのは、子育てを通じて地域を豊かにしていく「こまちぷらす」
戸塚駅すぐ近くの商店街にある「こまちカフェ」は、地元でも有名なカフェです。
けれども実は、カフェ以外にもおもしろい取り組みをしているんです。
一体どんなことをしているのでしょうか?
お話を伺ったのは、こまちぷらすファンドレイザーの佐藤貴美さん。
佐藤さんがファンドレイザーになるまでのストーリーはこちらの記事で!
子育てを『まちで』プラスに
こまちぷらすは、「子育てを、まちでプラスに」をスローガンに活動しています。
今年度よりビジョンが「子育てが『まちの力』で豊かになる社会へ」と変わりました。
今までは、孤立しているお母さんを孤立しない状態にすることに注力して活動をしていましたが、現在は、お母さん方が持っている力を社会で活かす機会を創出することや、社会の側に子育てに関心を持つ人を増やす活動にも力を入れています。
そこで、ミッションは「孤立した子育てをなくし、それぞれの人の力が活きる機会をつくる」。
これまではマイナスからプラスにするまでを目標としていたんですけど、その人達がさらにエンパワーメントすることが今の目標。
更に、社会の側にも子育に関わる機会を創っていくことをミッションとして掲げています。
「はじめての子どもが生まれる前に、赤ちゃんの世話をしたことがない」
——-地域で子育てをしている方が抱えている課題とは、どのようなものなのでしょうか?
横浜市で調査をしたときに7割強の方が「はじめての子どもが生まれる前に、赤ちゃんの世話をしたことがない」ということがわかりました。
自分のこどもが生まれて初めて、子どもと接するんです。
すると、子育ての仕方がわからなくて、孤立をしてしまいがち。
ネットに情報は溢れていますが、検索するキーワードすら分からないのがこの時期です。
そこで「孤立した子育てのない社会を目指す」という私たちの事業が始まりました。
かくいうわたしも、実はその一人だったのですが……。
佐藤さんへのインタビュー:「はじめは視察だった」会社員がファンドレイザーになるまで
子育て以外の声も拾い、発信を
事業を進めていくうちに、孤立した子育てをしている人たちは、「対子ども」だけでないこともわかりました。
出産年齢が上がっていったことで、同時に介護をしている方もいます。
そうすると、もっと外に出られないし、声を発信することもできない。
これを「ダブルケア」といいます。
ダブルケアだけでなく、さらにその上のおばあちゃんも介護をする「トリプルケア」もあります。
自分のお子さんに障がいがあって、なかなか人に頼れず孤立している場合もあります。
そこで私たちは、子育てだけでなくなんらかの事情で介護をしていたり、障がいを抱えるお子さんを育てたりしている保護者の方たちの声を集める活動もしています。
一概に子育てだけをやっているわけではないのは、それぞれの社会課題をわたしたちは目の当たりにし、どれもが「孤立した子育てをなくす」ミッションとつながっているという理由があるんです。
スタッフにも耳が聞こえないスタッフがいます。
私たちも彼女からいろいろと教えてもらうこともありました。
彼女は去年まで「聞こえないママプロジェクト」をやっていたスタッフで、一緒に障害を知ってもらう活動をしています。
消防署からワークショップの依頼がきて、そこの職員全員に講座をしたこともあるんですよ。
——-こまちカフェだけでなく、カフェを拠点としていろいろな活動をしているんですね
そうですね。カフェに集まってきた声をもとにして、事業展開しています。
6つの事業はカフェから生まれた
今は事業として全部で6本の柱があります。
①子育て情報の提供
②こまちカフェの運営
③多様性を目指した学びあい事業
④チャレンジ事業
⑤つながり事業
⑥提言・啓発
スタート時には、情報提供とカフェの運営が二本柱でした。
①子育て情報の提供 ②こまちカフェの運営
①子育て情報の提供は、WEB上で「今日なにしようかな」と思ったときにカレンダーをクリックすると、その日地域で何をやっているのかを見ることができるというものを作っています。
あとは区役所のなかにある「とことこ」という情報スペースを運営しています。
そして②こまちカフェの運営は、他の事業がうまれるきっかけとなっています。
カフェは居場所の事業としてはじまったのですが、カフェというフラットな場所でいろんな人たちのニーズをくみ取り、他の事業がうまれていきました。
元々代表が、居場所の必要性を強く感じていたそうです。
場がないと声は集まらない、決まった場所があるから通うことができ、あの場だったら話してもいいかな、あの人だったら話してもいいかな、という気持ちにつながっていく、ということがありますよね。
そのための「居場所」と、外に出られない人たちのための「情報」という事業がははじめに立ち上がりました。
③多様性を目指した学びあい事業
発達に心配のあるお母さんたちの学びの場である「でこぼこの会」。
介護施設見学会など、多世代の人達が集う仕組みを作っている「えんがわ」。
「不登校ひきこもりの親ができること~ほっとひと息金曜日~」は今年度立ち上がったばかりですが、毎回満席に近い形でご参加いただいています。
④チャレンジ事業
レンタルスペースの貸し出しと、手作り品の販売コーナーを運営しています。
レンタルスペースではヨガやベビーマッサージ教室等が開かれていますね。
これは私たちの大事な固定費の収入源になっています。
カフェの収入だけではやはり変動があるので、こういった場所を年間契約していただいています。
雑貨の販売もしていて、これはまだお店を出す機会のない方のチャレンジの場としてあります。
昨年度末から「SDGs×ものづくり」として「自分たちが物をつくるってなんだろう」を、市民の視点から考え選択眼を少し変えるような企画もやっています。
そして、カフェまで足を運べない人のためのアウトリーチとして、東戸塚にあるイオンキッズリパブリックでイベントを月3~4回行っています。
⑤つながり事業
事業費全体から見て、大きな割合を占めているのは「ウェルカムベビープロジェクト®」と
「つながりデザインプロジェクト」です。
ウェルカムベビープロジェクト®とは、まちのみんなの「おめでとう!」の気持ちを、赤ちゃんとそのご家族の皆さんに届けていきたいと活動しているプロジェクトです。
地域社会から赤ちゃんと家族を祝福する気持ちをこめて出産祝い「ウェルカムベビーボックス」をお贈りするほか、贈り物の中に入っている手縫いのお守り(背守り)を縫う会を開催したり、地域の産院とプレママ・プレパパに向けての講座を行ったり、「子育て」をみんなが支え合う地域社会を目指しています。
横浜市戸塚区に拠点を置く「NPO法人こまちぷらす」と、「ヤマト運輸株式会社神奈川主管支店」が、横浜市が実施している「ヨコハマ市民まち普請事業」による「企業マッチング」を通して知り合い、協働して企画を練り、行政や地域住民とも協議を重ねながら立ち上げました。プロジェクトで、今は戸塚区以外に横浜市鶴見区でも始まっています。
続いて、つながりデザインプロジェクト。
カフェに来てくれた人がやりたいという気持ちから、いつの間にか「まちの担い手」としてその人達が主体的になれるような「場」の設計を行っています。今は同じようなコミュニティカフェを運営している方々や、「場」を持つ人たちに広めていくことに力を入れています。
NPO法人CRファクトリーさんと一緒に、行っていて、日本財団の助成金を受けて3年目の助成最終年度になります。
⑥提言・啓発
カフェに集まってきた声をもとに、子育ての現状や、なってほしい未来を提言、啓発する事業です。
全部で6本の事業を行っています。
パートナーの支えをもとに
今後、こまちカフェの支店をつくろうということにあまり魅力を感じてはいなくて、私たちの培ってきたノウハウをいろんな地域に展開していきたいと思っています。
特に⑤つながり事業の「つながりデザインプロジェクト」ですね。
カフェにきても、すぐに他の人とつながるっていうのは難しいですよね。
こまちにはCRファクトリーさんの研修を受けたコーディネーターが4名います。
その人達を始め、カフェの店頭に立つスタッフがカフェにきた人たちに声をかけたり、興味のあるものをコーディネートしたり、その人の興味を引き出すお手伝いをしています。
こまちパートナー
ボランティアの方々を私たちは「パートナーさん」と呼んでいます。
私たちの居場所を維持するため、パートナー登録会に参加するのにも参加費を500円いただいています。登録会で説明を聞いていただき、ビジョンとミッションに賛同してくれた方がご登録いただけるものになっています。
パートナーに登録すると「もくもくの会」という黙々と事務作業をする会などに参加ができるのですが、お子さんと一緒でも関われる会としての位置づけになります。
その他にも、「どのように関わるのがその人にとって最も心地よいか」にフォーカスし、個別にお声がけして手伝っていただくこともあります。
こまちパートナーぷらす会員
さらにもっとこまちに関わってくださる気持ちのある方は「こまちパートナーぷらす会員」の登録をおすすめしています。
スタッフミーティングでやっているような研修を受けたり、「壁打ち」というプログラムを行ったりします。
壁打ちというのは、一対一になってひたすらその人のお話をきく、自分でひたすら話して、聞き手はひたすら共感すること。
お互いに共感できたり、気持ちを共有することで、ゆくゆくは自分たちがやりたいことが見えてくるんです。
ちなみに、登録には半年間で3,000円いただいていますが、私たちのビジョンミッションに共感くださり、理解いただいた上での登録となっています。
関わるうちにやりたいことを見つけていく
毎年日本財団で報告会をしているのですが、その報告内容からわかったことがあります。
パートナーのうち半数以上が、もともとやりたいことがあったわけでなくて、「なんか関心がある」という状態で登録してくださっていたんですね。
ぷらす会員になった人達をみると、登録会後にさっきの研修や壁打ちをしているうちに自分のやりたいことが見えてきた、という方が多いんです。
今では、パートナーさんだけで企画したイベントを開催したり、外でイベントを開催していたりします。
カフェにただ飲食にきていただけの人が、パートナー登録会に出て、交流会に出て、結果的に自分がアクションできるような人間になる。
はじめは「興味」だけだったのが、「愛着」になり「主体」になる、ということです。
あとは、育休中に登録するパートナーさんも多いですね。
登録会は多くが平日なので、中には仕事のお休みをとっていらっしゃる方もいます。
平日だということに躊躇する方もいるかとは思うんですが、毎回パートナー登録会はほぼ満席になっています。
地域の人々に支えられて
——-パートナーさんは女性が多いのでしょうか?
そうですね、パートナーさんは女性が多いですね。
ランチタイムに見守りボランティアさんがいるんですが、お仕事を引退されたシニアの男性もいらっしゃいます。
その方は、戸塚の他の子育てボランティアもされていて、私たちの大事な大事な存在です。
あと、カフェにあるキッズスペースは、地元の小学生が「こんなキッズスペースがあったらいいな」を形にしたものです。そのあと、地域のシニアの男性たちとスタッフの家族数人で作ったんですよ。
今日もイベントをやっているので、たくさんのお子さんが遊んでいますよ。
——-いろいろな方に支えられているんですね。
そうですね。
収支では事業費だけでなく、寄付も頂いています。
寄付の内訳は、個人の寄付や法人の寄付など。
ウェルカムベビープロジェクト® の寄付付き自動販売機を置いて下さっているお店も、今は20店舗ほどに増えています。
例えば、こまちカフェのすぐ向かいのもんじゃ横丁さんとかですね。
ドリンクを購入するとその売り上げの一部が寄付される、という仕組みになっています。
この寄付付き自動販売機からの収入も多く、この夏は暑かったので特に多かったです。
——-本当に地域に根差していらっしゃるんですね。
いま神奈川県でも、組織や地域の担い手が見つからない、育たない、という声があり「神奈川コミュニティカレッジ」で講座を持たせていただいています。
これを知った他の自治体の方からも、自分たちのところでもできないか?とご相談をいただいたりしています。
ノウハウを共有していく
私たちはこまちカフェの支店を出すのではなく、培ってきたノウハウを展開していきたいと思っています。
つながりの事業のなかで、「居場所づくりコーディネーターの育成プログラム」という講座を持っています。
ここでは、私たちが経験してきたことを紹介しています。
——-今後どうなっていきたい考えていますか?
実は法人としてどうしていきたいか、という部分は、決めかねています。
かつて、みんなが違う方向を向いてしまって、たくさんのスタッフが辞めてしまったこともあります。
もしかしたら今の規模がちょうどいいかもしれない。
ここのスタッフはみんなワークシェアをしていて、週に2~3回、4~6時間くらい働いています。
スタッフは大体50人くらいいるんですが、みんなで細かくシフトを組んでいます。
フルタイムのスタッフもいますが、ほとんどが短時間のスタッフで、子どもと過ごす時間を優先していたり、例えばお子さんに障がいがあって、本当に短い時間しか働けないかもしれないけど、必要な力を持った人たちは地域にたくさんいます。
今の社会はフルタイムが基本で、働くか働かないか、しか選べないことも多いですが、地域にいる優秀な人達って埋もれてしまいがちです。
私たちは、そういった人達もそうでない人たちも一緒になって、たくさんのことを実現していこうと毎日がチャレンジです。
本音を引き出すワーク
コミュニティカフェって日本中にありますが、ほとんどが人手が足りなくて苦労しています。
もしかしたら、私たちのノウハウを伝えることができれば、うまく回るようになるかもしれない。
例えば、私たちが行っているワークに「3枚の葉っぱワークショップ」というのがあります。
もともと代表が横浜で他当事者団体と一緒に集まって作ったネットワーク(みんなで話そう!横浜での子育てワイワイ会議)で開発してオープンソースにしたワークショップですが、こまちぷらすでは独自にワークシート開発や他テーマへの展開をしてつくってきたものです。
一枚一枚に、横浜市によせられたパブリックコメントや独自集めた声が書かれています。
パブリックコメントというのは、行政に寄せられた当事者や支援者の声です。
パブリックコメントって、分厚い冊子になっているんですが、専門家でもない限り読んでみようとは思わないですよね。
だから、こういう形にしてみたんです。
「子育て中でもできる在宅の仕事がもっと増えてほしい」「子育てをキャリアにしたい」といった内容書かれています。
一番初めに3枚、気になるものや、納得のいかないもの、これなんだろう?っていうものを選んでもらいます。
そしてそのカードについて、「そういえば私、外に出られなかった時期があったな」とか、「実はいまみんなに言っていないけど、同じこと思っていた」とか話し合うんです。
こんな形で、人の声を借りて自分の内面を話すきっかけになるセッションを作っています。
アンケートだと表面上の声しか出てこないかので、素の声を引き出すんです。
次は10月17日(水)に開催するので、よかったらいらしてください。
——-私まだ子育てしてないですけどいいんですか?
ぜひぜひ。どなたでも参加できます。
まだ子育てしていない人もたくさん参加しています。
当事者の方がたくさんいらっしゃるので、企業の方とか行政の方とかが生の声を聴いたりご意見をお互いに聞く機会等と捉えていらっしゃいます。
子育てがイメージつかない人も多いので、理解を深めてもらう機会としても使ってもらっています。
「子育て」「介護」「障がい」の3つのテーマを扱っています。
Facebookをみたら開催報告がありますので、ぜひチェックしてください。
——-ぜひお邪魔してみたいです。お話ありがとうございました。
編集後記
佐藤さん、お忙しいなかインタビューへのご協力ありがとうございました。
佐藤さんがファンドレイザーになるまでのストーリーはこちらの記事で!
インタビューのご協力、ありがとうございました!
きふるでは「なぜその課題に向き合おうと思ったのか」「なぜ寄付をするのか」といった支援者の想いを知ることで共感を生み、支援の輪が広がっていく考えております。
あなたが社会課題に取り組む理由をお聞かせください。