「縦の関係から横の関係に」知的障害者マラソン”伴走家”インタビュー

「縦の関係から横の関係に」知的障害者マラソン”伴走家”インタビュー

知的発達障がい者のためのスポーツ組織「スペシャルオリンピックス」でコーチとして活躍し、さらに”伴走家”としても活動をしている磯野茂氏にインタビューをしてきました。

スペシャルオリンピックスとは知的障害のある人たちに、さまざまなスポーツトレーニングと、その成果の発表の場である競技会を年間を通じて提供している国際的スポーツ組織。(公式ホームページより)

スペシャルオリンピックスではスポーツを通して、社会参加をすることを目的としているため、競技会だけでなく、日々のトレーニングを重視しています。

さまざまな活動が毎日おこなわれていることを表すため、「スペシャルオリンピック”ス”」と複数形になっているのが特徴です。

きっかけは「たまたま見かけて」

西山 障害者スポーツとかかわりはじめたきっかけはなんですか?

 

磯野 知的障害のある人たちと関わるようになったのはスペシャルオリンピックスと出会ってからです。

スペシャルオリンピックスの長野冬季大会のチラシを見て初めて知りました。そのとき確か2006年。

 

私が利用しているランニングの練習場所で、スペシャルオリンピックスの陸上競技プログラムが実施されていたのですが、初めは「どんな人たちなのだろう?」と思って見ていました。

それから2年ほど時が過ぎたのですが、スペシャルオリンピックスのニュースをなにかで見かけてその時のことを思い出し、ボランティアコーチとして参加しようと思ったのです。

実際に活動に関わったのが2008年。今年でちょうど10年ですね。

私自身、高校時代に陸上競技経験があり、以来ずっと市民ランナーとして走り続けているので、自分ができることを通じて何か貢献ができればと思って参加し始めました。

磯野さん-HP

参考:磯野茂公式ホームページ

 

2013年の3月にスペシャルオリンピックス埼玉県地区組織の陸上プログラム川口ブロックのヘッドコーチになりました。この5~6年は本当に濃く活動しています。

最近は、埼玉地区全体の活動のサポートをしたり、スペシャルオリンピックスのプログラム以外でメンバーとマラソン大会に参加したり、知的障害のある人たちとの関わりは深くなりました。

家族が抱える問題

大人になると参加しづらくなる

西山 そのなかでも伴走家をはじめようとおもったきっかけは?

 

磯野 スペシャルオリンピックスはとても素晴らしい活動ですので、関わっていくうちに、そこからもっと発信できることはないかなと思い始めました。

 

私がひとつ気になっていることは、大人になり年齢が上がるに従ってだんだんスペシャルオリンピックスの活動に来なくなるのです。

仕事の関係や、ほかの活動に移るなど、いろいろ事情があるのでしょうが、若い人たちがプログラムの主流になってしまい、年齢が上がるに従い参加しづらくなる、家庭の環境が変わってくることが主な理由かと。

 

知的障害のある人にとってひとつの大きな変化は、学校を卒業してからのこと。

学校を卒業して、会社に就職したり社会活動に参加できたりすればいいけれども、できない人もいる。

そうすると、家の中にひきこもりがちになり、家族の生活に影響が出る。

 

そこで、私が培ったスポーツ活動の経験を活かし、そういった人たちを社会に近づけてあげる。スポーツを通じた時間を提供できたら、と思ったのが1番最初の考えです。

 

本当に大変なのは、学校を卒業してから

磯野 学校に通っている間も、結構大変そうです。

学校から帰ってくる時間は4時か5時。

するとご家族は、送り迎えをしたり、できない場合はヘルパーさんや学童施設など支援サービスを受けたりする。

 

更に、大人になってからが大変なことが多い。

学校を卒業して、就職できるか、社会参加の場に加われるか。

 

ちなみに、私たち、いわゆる健常者は、クラブ活動のような課外活動ができます。

私も仕事のあとにランニングを楽しんでいます。

しかし、障害のある人は自分一人では難しい。

だから、私のようなランニング愛好家が、障害のある人たちに少しでも関わることができたら、本人とご家族にメリットがあるなと思ったのです。

 

障害者スポーツに関わって、なにが変化したか

障害者と関わっていくうちに人付き合いがうまくなっていった

西山 障害のある方と関わるうちに、磯野さん自身、変わっていったことはありますか?

 

磯野 障害のある人たちがもっと社会に出て世間一般の人たちと関わることで、どんな人たちにもいろいろなメリットがあると思います。

それは私自身が体験しているから言えるのです。

 

私は知的障害のある人たちと関わったことで、教わったことがあります。

特に対人関係、コミュニケーションのこと、「人それぞれが違うんだよ」ということを私は教えてもらった

相手が障害のあるなしに関わらず、人間関係、対人関係がうまくなり、自信がついたのです。

コミュニケーションが上手になったというか、いろんな価値観があることを知ったし、物事の考え方が変わったし、それらは全てにおいてプラスになった。

 

私は、障害のある人たちが社会の様々な人たちと関わって、共同作業や接点を持つことで、関わったすべての人たちが学べることがあると思っている。

そういう場を作ることが、障害のある人たちが社会に出られることにつながる。

障害のある人たちと関わることで、誰もがいろいろな学びを得ることができ、winwinの関係になることができると思っている。

私自身、スペシャルオリンピックスに関わり、その経験からそういう活動ができないかなと常々思っていました。

 

西山 これまで障害児に焦点を当てられることがあっても、大人になった障害者に焦点を当てられることがなかったので、大人の障害者に焦点を当てているというのが新しい取り組みだと思います。

 

磯野 街中で特別支援学校の通学バスなどを見かけたとしても、大人の知的障害のある方に頻繁に街中で出会うことはありません

気づかないこともあるでしょうが。

私は、普段は自宅や様々な施設で過ごす「大人の知的障害のある人」と、スペシャルオリンピックスの活動を通して接してきました。

この経験を広く社会に伝えることができたらと思います。

athleteと走る磯野氏

参考:伴走する磯野さん

「助けてあげる」からの変化

西山 障害のある人と関わることで教わることがあるとおっしゃっていましたが、何を教わったのか具体的に伺うことはできますか?

 

磯野 キーワードは「縦の関係から横の関係」への変化。

 

スペシャルオリンピックスに参加し始めた頃、「何かの役に立とう」と思っていました。

表現を変えると、何かを教えてあげよう、何かをやってあげよう、と思っていた。

「ちゃんと走れないのなら、ちゃんと走れるようにさせてあげよう」

「1人で行動できないのなら、連れてってあげよう」

など、いわゆる上から目線。

弱い人に対して強い人が、できない人に対してできる人が、“やってあげる”というスタンスでしたし、実際にそうして関わっていた。

 

すると、知的障害のある人、自閉症のある人、はコミュニケーションの特徴やこだわりがあるので、押し付けられたことに拒否することがあるし、本当はやりたくないことをやらされてしまうこともある。

例えば、私が何かを指示したことに対して、彼らは私が意図したことと違うことをやることがある。

これを「わかってない、聞いてない!」と思うかもしれませんが、彼らは、指示したことを彼らなりに受け取って、その結果、違う方法でやろうとした、または他のことをやろうとしていたのです。

こんな事柄を、関わるうちにたくさんわかってきたのです。

「指示」ではなく、私にとって都合のよい「押し付け」だったのです

 

彼らはきちんと、彼らなりにその場の状況を把握し、何かに関心を示し、彼らにとって1番正しいこと、やりたいことをやろうとしていた。

私はその時に思ったのが、こういった押し付ける押し付けられる縦関係ではなく、相手の関心に寄り添い対等に物事を合意する横関係が大切だと。

これが「縦の関係から横の関係」です。

 

障害者・健常者関係なく、対等な関係を築き、私はこうしたいけども、あなたはどうしたい?

私が意図して発信したことに対して、あなたはどう捉えた?どういう発信の仕方がいい?

と考えることで、関係はスムーズになっていった。

 

西山 なるほど。関わっていくうちに、関係性が対等なものに変わっていったのですね。

 

障害者に通じることは、健常者にも通じること

磯野 物事は自分が思ったようには伝わらない、ということに気づいたのですね。

例えば、自閉症のある人に、私が何かを伝えたとき、私の意図通りになかなか通じないことが多い。

相手に対しどういう伝え方をすればきちんと伝わるのか、とても訓練がされた。

 

例えば、ソフトボール投げを教えるときに、「もっと腕を大きく使って投げるのだよ」と口で伝えたところで伝わらない。

「もっと腕を振って!」と、体を使って示すのはいいけれど、いい加減なジェスチャーをしたら、その子は目で見たことをそのまま真似するから、いい加減なジェスチャーになる。

教える時は言葉で伝えたいことは、動作を正確に一致させなきゃならない。

このようなコミュニケーションの不一致は、すべての人に当てはまる対人関係と関係してくるなと思った。

そうして私は、実際に仕事の場でもよく人や状況を観察するようになって、今この人はどういうことに関心があるのだろう、どういう伝え方をすればいいのだろう、と気にするようになった。

 

このように私が学んだことを、他の人にも知ってもらうことで、職場での人間関係の悩みや家庭内の悩みについて、1つの解決策を提案できるのではと思っています。

くれぐれもですが、そうなってほしくないと思うのは、かわいそうとか恵まれていないから何かをしてあげよう、と思ってしまうこと。

そもそも彼らは不幸ではない。

障害者・健常者が持っているもの持っていないものの“あるなし”の話ではなく、人それぞれが持っているものがあるのです。

 

西山 たしかに、いち障害者の家族としても、別にかわいそうと思われても嬉しくないんですよね。

 

私が出会った知的障害のある人たちは「先生」

磯野 私は障害のある人と関わることで、いろいろな学びを得ることができた。

それはつまり私は他では経験のできない学習をさせてもらったということなので、授業料を収めたいくらい感謝している。

 

あらゆる社会の人たちが知的障害のある人たちと関わることによって、学びを得ることができる。つまり価値(ベネフィット)が生まれる。

教えてくれた先生に対して、学びを得た人がベネフィット分の対価をお返しする。

実は、私が当初から考えてきた障害のある人とその家族へサポートすることが、一般社会・ほかの人と結びつくと、障害のある人の「仕事」につながると思っているのです。

 

表現の仕方がとても難しいのですが、作業所・施設で働いている知的障害のある方は、健常者の仕事の内容をベースに、その中でできる「作業」を探し出して、その中で一生懸命働いている。

 

それも良いのですが、私の考えは、

「あなたのまま、あなたなりの姿を見せてください。そしてたくさんの人と関わってください。」

知的障害者にできることは「作業労働」だけではなく「知的労働」もあるのです。

 

もう少し説明を加えると、障害のある人が就職する場合、大雑把に言ってしまうと、健常者の人たちがやるカテゴリーの中で、障害のある人ができる一部のところが仕事になる。

だけど、私はそういう考えではなくて、彼らしか持っていない、できないものを強みにするということを考えている。

私は16年間、教育研修プロデューサーとして企業研修の場に立ち会い、いろいろな研修プログラムを作ってきた。

そこで企業の課題やニーズにいろいろ直面してきたので、私の考えが何かマッチングするような気がしているのです。

 

西山 障害のある芸能人っているじゃないですか。バリバラとか。近いのかなぁと思いました。

 

磯野 そうですね。

バリバラは私も好きな番組ですが、テレビで見るだけではなく、地域・社会で障害のある方ともっと普通に関われるようになる。

そういう状態を作って、お互いが楽しくいろんなことを学んでいく。

障害のあるなしに関係なく、win-winの世界を作りたいですね。

 

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磯野氏へのインタビューはまだまだ続きます。
後半はこちらをご覧ください!

パラリンピックとは違う?知的障害者スポーツならではの問題とは

 

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