不妊のつらさを分かってくれる人が欲しかった|NPO法人Fine認定不妊ピア・カウンセラー

不妊のつらさを分かってくれる人が欲しかった|NPO法人Fine認定不妊ピア・カウンセラー

きふるでの寄付とは、言葉の通り「寄り添うこと」。

現金の支援だけでなく、ボランティアで時間をさく、フェアトレード商品を買うなどの社会貢献活動を総括して、「寄付」と呼んでいます。

 

 ではボランティアをしている人って、どんな人なんでしょうか?

きふるでは、ボランティアを始めたきっかけなど、彼らのアタマの中を分解していきます。

 

今回お話を伺ったのは、NPO法人Fine認定不妊ピア・カウンセラーとして活躍されていらっしゃる渡邉雅代(わたなべ まさよ)さんです。

Fine-渡邉さん

ピア・カウンセラーとして不妊当事者をサポート

—はじめにボランティアをしている団体について教えてください。

 

NPO法人Fineでは、過去・現在・未来不妊体験者を支援しています。

 

「結婚しているけれど子どもがいない」ということが、日本ではあまり理解が深まっていません。

子どもが欲しくて努力を重ねても授かれない人はたくさんいる。

けれど、それを正しく知られていないせいで、一人で抱え込んでしまう

 

わたしたちの団体では、そういった方たちをサポートしています。

 

—不妊を経験してきた方々は今まで一人で抱え込んでいて、あまり相談できる場所もなかったんですね。

—未来の不妊に関わる人たちというのは、どういう方のことですか?

 

これから妊活をはじめようかなという人や、まだ結婚していないけれど子どもが欲しいと思っている人です。

そのような人たちにも、情報提供をしています。

過去の自分のようにつらい思いをしている人に伝えたい

わたしは、Fineでピア・カウンセラーとして活動しています。

Fineのピア・カウンセラーの養成講座を受講する条件は「不妊体験者であること」。

養成講座で心理やカウンセリング技術を学び、認定試験に合格してカウンセラーになりました。

 

いまは対面カウンセリングや不妊当事者同士でお話をするおしゃべり会などをしています。

ヨガインストラクターの資格も持っているので、ヨガスタジオやイベントで「妊活ヨガ」もしています。

 

わたしは10年ほど不妊を体験しました。

身体も心もボロボロになってしまって、「なんとかしなくては」と週一回通っていたヨガを毎日自宅でするようになりました。

続けていくうちに身体だけでなく心も軽くなっていることに気が付いたんです。

そのことを、同じように不妊で苦しんでいる人達に伝えたいと思って、インストラクターの資格を取りました。

 

もちろん、全ての人に当てはまるとは限りません。

けれど「心と身体を整えたいとき、選択肢のひとつとしてヨガがあるよ」というのを伝えたかったんです。

 

ヨガというと、美容やストレッチのイメージはあるようですが、不妊や心のケアとはなかなか結び付かないのかもしれませんね。

 

—自身の経験と特技をいかしながら、Fineの活動に参加されているんですね。

ボランティアで自分の心が癒される

最初は人のためにやりたいと思っていたんです。

けれどボランティアをしていくうちに、自分が癒されたり嬉しい気持ちになっていることに気が付きました。

いつの間にか、自分のためにボランティアをしていたんです。

 

カウンセリング中、ときどき相談者は「やっとわかってくれる人がいた」「やっと話せる人をみつけた」って泣いてしまうことがあるんです。

その姿をみて「自分が不妊で苦しんでいた10年は無駄じゃなかったんだ」と思える瞬間があります。

 

相談者の気持ちに寄り添えたときは、自分が喜びを感じさせてもらっていますね。

カウンセラーと相談者が同じ気持ちを共有すると、お互いにいい時間になるんです。

それは本当に不思議な感覚ですね。

 

これはカウンセラーとして活動するまでわからなかったことでした。

ゴールは妊娠だけでないと気づいた

—どうしてカウンセラーとして活動しようと思ったんですか?

 

妊活ヨガのインストラクターをするうえで、いろんな不妊当事者の体験を知る必要があると思ったからです。

治療をして子どもができた人、二人目不妊に悩んでいる人など、いろんな方がいます。

自分の経験だけではなくて、いろんな方々の心理を勉強しなければと思ったんです。

 

不妊カウンセラーの講座はいくつかの団体が出していました。

そのなかからFineを見つけました。

 

実は、わたしが不妊治療をしていたとき、Fineのことを知らなかったんです。

不妊の悩みを一人で抱え込んでしまっていたうちの一人でした。

もっと早くFineのことを知っていたら、もう少し気持ちが楽だったかもしれないですね。

 

わたしは不妊に悩んでいたとき「妊娠したら明るい未来が待っている」としか考えられなかった。

治療が上手くいかないと、なんでわたしは女性として生まれてきてしまったんだろう、妊娠できなかったら人間失格だ、女性失格だと自分を追い込んでしまった。

 

調べて出てきた不妊カウンセラーの講座や資格で唯一Fineのピア・カウンセラーは「妊娠」だけをゴールにしていませんでした。

 

実際にはわたしのように妊娠しない人もいますし、養子、里親という選択をする人もいます。

いろんなゴールがあるということを知って、自分の考えが一変しました。

 

どんな選択をしたとしても自己否定することなく、自分らしさを取り戻して幸せになれる選択を、一緒に作っていきたい。

そこに魅力を感じて、Fineのピア・カウンセラーになろうと決めました。

不妊を経験したからこそできること

体験した人にしかわからない気持ちはたくさんあります。

「こういう気持ちなんです」と伝えても体験していない人には理解しがたいものもあります。

気持ちを1から説明することですら、苦しいときもあります。

不妊を経験したFineのピア・カウンセラーは、1から説明しなくても感情をある程度理解できるんです。

 

—-たしかに、今自分が苦しんでいることを口にするだけで辛いことってあります。それを共感してくれる人がいるのは心強いですね。

 

Fineのカウンセラーのことを「ピア・カウンセラー」というのですが、「ピア」とは「仲間」という意味があります。

アドバイスをするのではなく、ただ気持ちに寄り添う。

カウンセラーが「そういう気持ちになるのは特別なことではない」と伝えることで「一人じゃないんだ」と思うことができます。

 

不妊体験者にはわかる、黒い気持ちってあるんですよ。

例えば年賀状の赤ちゃんの写真。

不妊治療をしている人たちは、結構辛いんです。

 

けれど、写真を見て辛いんじゃない。

辛くなった自分が嫌になるんです。

「なんでわたしはこんなに心が狭いんだろう」と自分を責めてしまう。

 

どんどん自己否定をしてしまって、自分に自信がなくなってしまう。

そういう時には「そうなってしまうのはあなただけじゃないですよ、頑張っているときは自然な感情ですよ」と言ってもらえるだけで、とても楽になるんです。

同じ立場で声をかけてあげられるというのが、ピア・カウンセラーならではの特徴です。

 

—体験した自分だからこそ、できるカウンセリングだと思ったんですね。

気持ちを共感してくれる人が欲しかった

わたしは不妊治療をしているとき、クリニックでカウンセリングを受けました。

けれどそのカウンセリングは、治療の話がほとんどでした。

 

最初の時期はまずは治療方法が知りたいので、もちろんそのようなサポートも有効です。

けれど治療の年数がたってくると、知識よりも心のサポートをしてほしくなる。

だんだん気持ちがつらくなってくるので、心理的なカウンセリングを受けたかったんです。

 

クリニックでは当事者同士で話す機会もなくて、シーンとした異様な空気が流れていました。

「ねぇねぇ、どんな治療をしているの?」なんて、病院の待合室では話しづらい。

けれども中には、治療している同士で話したい!いまの気持ちを共有したい!という人はいます。

 

わたしがやっているおしゃべり会は、インタビューのように進むこともあるんですが、盛り上がってきたら井戸端会議のようになります。

不妊治療をしている人同士で話すことって普段の生活の中ではないんですよね。

 

—-治療している人同士で話す機会がないと、一層孤立してしまってどんどんつらくなってきますよね。

悩んでいることを隠してしまう

わたしは不妊治療をしていることを、あまり周囲に話しませんでした。

 

ヨガインストラクターの資格を取るときに、受講の動機をたくさんの人の前で話すことがありました。

その時に「わたしは不妊で同じ人達を支援したい」と初めて自分が不妊を体験したことを口にしました。

 

いま日本では5.5組に1組のカップルは赤ちゃんができない・できにくいことに悩んでいるといわれています。

2016年のデータでは体外受精などを経て生まれた子どもは、約18人に1人

1クラスに1~2人はいる計算になります。

これだけ不妊は身近になっているんですが、みなさん治療をしていることを隠していらっしゃるんです。

 

–話す場所もないし、だからこそ当事者は一人で抱え込んでしまうんですね

治療をすれば妊娠するという勘違い

そして、多くの人が不妊治療をすれば必ず子どもはできると思ってしまっているんです。

 

–いまは医療技術も発展しているし、病院にさえにいけば子どもはできると思ってしまいます。

 

わたしも体外受精さえすれば子どもはできると思っていました。

けれど実際のところ、妊娠する確率は高くないんです。

 

よく「〇〇歳で子どもができました」って有名人の本がありますよね。

そういうのを見ると「いくつになっても妊娠できるんだ」と思ってしまう。

でもそれはレアケースだから取り上げられているだけで、治療をしても妊娠しなかった人はたくさんいるんです。

 

実際に不妊治療を続けている人が知りたいことは「子どもはできなかったけれど、こんな選択肢を選んだよ」というもの。

本当は「妊娠」以外にも選択肢はたくさんあるのに、それ以外の情報を得ることが難しいのは、もったいないことだと思います。

知識があれば選択肢が広がる

勘違いがうまれるのには、不妊の話をしにくいことも関係していると思います。

治療をしている人同士で話すことがないから、話題に上がらない、そもそも悩んでいる人がいることを認識されない。

 

不妊ってきくと、くらいイメージがあるじゃないですか。

「不」って漢字がよくないのかもしれませんね。

 

—-いまは「妊活」という言葉もあって、だいぶライトになってきたとも思います。

 

そうですね。

でもまだまだネガティブなイメージはあると感じます。

 

—-どうして治療をしていることを隠してしまうのでしょうか?

 

いろいろあると思います。

ひとつは、正しい知識が浸透していないからだと思います。

 

不妊治療への正しい知識を、不妊当事者だけでなく世の中の人たちに知ってもらいたい。

 

わたしも治療を始めるまで、生理さえきてればいつでも妊娠できると思っていました。

若いうちからいくつかの選択肢を知っていたら、違った人生があったのかもしれませんね。

 

けれど、今は「意味があって子どもができなかったんだ」と思っています。

「これからの人たちに正しい知識を伝え、その人に合った妊活を選択してもらう。それは子どもができてもできなくてもです。」

これが自分の使命であると思っています。

不妊は身近なもの

—-最後に今後どんな社会になっていってほしいですか?

 

不妊に対して同情ではなく共感してほしい。

不妊は特別なことではなく身近なもの。

 

身近なものなんだ!と気付いてもらえると、当事者にとって生きやすくなります。

 

「子どもをどうして作らないの?」と聞かれることがあります。

もちろん聞いた人だって悪気はないんです。

 

ほかにも、マンションの内覧にいくと「ここは子ども部屋です」と紹介されるんです。

子どもが欲しくてもできない夫婦にとっては傷ついてしまうこともあるんです。

 

「不妊の人もいるんだろうな」という意識を、ちょっとでも頭の片隅に置いておいてほしい

これだけで言葉の選び方が変わって、お互い良い関係を保つことができると思います。

 

—-「お子さんいらっしゃるんですか?」って聞き方を「ご家族は?」に変えるという話を聞いたことがあります。頭の片隅にあるだけでもお互い良い関係を作ることができると思います。

 

どれも当事者になると気が付くことですが、逆に言えば当事者にならないとわかりにくいんですよね。

わたし自身そうでした。

けれど、これと同じことって他にもたくさんあると思いますので、想像する意識は持ちたいですね。

 

不妊は身近なことだってことを知ってもらえるだけで、当事者にとってはものすごく生きやすい社会になると思います。

編集後記

渡邉さん、貴重なお話ありがとうございました。

 

「いろんな事情を抱えている人がいる」ということは、自身が当事者であったり当事者の話を聞かない限り、想像することは難しいかもしれません。

あなたができることを見つけるために、まずは知ることからはじめましょう。

 

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