「不妊は特別なことじゃない」当事者の声を社会に届ける|NPO法人Fine

「不妊は特別なことじゃない」当事者の声を社会に届ける|NPO法人Fine

「不妊」「不妊治療」「妊活」は特別なことなのでしょうか?

 

日本で不妊症に悩むカップルは5.5組に1組。

不妊治療を経て産まれた赤ちゃんは2016年の調査では、日本で産まれた赤ちゃん全体の18人に1人と、1クラスに1~2人もいる計算になります。

これだけメジャーでありながら、未だにこっそり治療をしている、していたという人も少なくありません。

 

今回お話を伺ったのは、過去・現在・未来の不妊体験者を支援する、NPO法人Fine代表の松本亜樹子(まつもと あきこ)さん。

不妊に悩む人にとって生きやすい社会とはどんなものなのか、お話いただきました。

NPO法人Fineができるまで

よくインターネットの掲示板の声を見ていた

NPO法人Fineを立ち上げる少し前のときのことをお話をします。

わたし自身、不妊治療をしていました。

 

わたしはまわりに治療をしていることを話していたけれど、やっぱり理解者は少ないと感じていました。

結婚して子どもがいる友人が多かったので、わたしの話は「うんうん」ときいてくれるけども「もしかしたら気をつかわせてしまっているんじゃないか?」と思うときもあって。

 

だから、初めて、本当の意味での「同じ立場の仲間」を見つけたのは、インターネットの中でした。

まだブログがない時代だったから、不妊当事者が集まる大きな掲示板にみんな集まっていたんです。

そこで初めて「わたし以外にもこんなにたくさん不妊の人っていたんだ」って知ってびっくりした。

別々の人が同じ話をしている!?

その掲示板にはそれぞれの人の、いろんな悩みが書いてあって。

わたしは見ているだけだったんだけど、「あぁそれ(検査)痛いよね」とか、「体外受精ってそんなにお金かかるんだ」とか「注射って痛そうだなぁ」って、情報を得たり、共感したり、一緒に悲しんだり、喜んだり。

毎日毎日掲示板を見ていましたね。

 

その掲示板って、不妊の人が集まる掲示板だから、妊娠したらスーッといなくなるんですね。だから、人は定期的に入れ替わっていくんです。

でもわたしはずっと妊娠しなかったから、何年も見ていたんだけれど、ある日「あれ、なんかこの会話見たことあるな」って思ったんですね。

 

たとえば、お正月には赤ちゃんの写真付き年賀状を見て「年賀状を見るのがつらい」と書き込みがあって、共感のコメントでいっぱいになる。

すると「ダメだよそんなネガティブなこと言っちゃ。妊娠菌が逃げちゃうよ」と反対する人が出てくる。

そうするとそれに対し「なによいい子ぶっちゃって」と反論し、掲示板が炎上しちゃう。

 

3月になると「ひな人形買ってあげたいよね」って投稿があって「私にはそんな日は来ないのかな」なんて書き込みがあったらまた「そんなネガティブなこと言っちゃだめよ」「だってこんなに何年も治療してダメなのよ。あなたはまだ治療が浅いじゃない。私の気持ちはわからない」と続き、そして炎上する。

5月になると「ゴールデンウィークは家族連れがいっぱいいるから見たくない」「ホントにいやになっちゃうよね」「ダメだよそんなこと言っちゃ」……という感じです。

 

何年も掲示板を見ていたわたしは「あれ、この会話見たことあるな。もしかしてデジャブ?」って思って。

でも違ったんですよね。

同じような会話なんだけど、人は入れ替わっている。話している人は違ったんです。

掲示板の声は、外に届いていなかった

なんでだろう? と考えて、あることに気が付いたんです。

「ああ、この掲示板、不妊の人しか見ていない!」って。

いくら「こんなこと言われるとつらいよね」とか「治療費高くて大変だよね。なんとかならないかな」とか、掲示板に書いたところで、不妊でない人は掲示板を見ていないから伝わっていない。

 

不妊で悩んでいる私たちは、不妊や不妊治療のつらさ、不便さ、何に困っているかなどを掲示板に書くことで、まるで社会に提言をしているつもりだった。

けれど、実際は社会には届いていなかった。

だから世の中っていつまでたっても変わらなくって、毎年同じ悩みを抱える人が出てくる人がいるんだって気が付いたんですよね。

 

社会に届けなきゃわたしたちの悩みってずっと変わらないんだろうなぁと、掲示板の声をどこかに届ける必要があると感じた。

 

一人ひとりの声は小さくて、届く範囲も限られている。

けれど10人、100人、1000人と集まっていくことで声を聞いてくれる人がいるんじゃないか。

だったらその声を届けるためのパイプを作ろうとなって、Fineを作ったんです。

NPO法人Fineの役割

当事者の声を集めて、社会に届ける

わたしたちはメッセンジャーになりたいんです。

例えば「不妊治療費で何百万とかかってしまう。経済的に非常に困っています」という声を国に届けたり。

「病院の先生とのコミュニケーションがうまくいかない」という声を医療機関に声を届けたり。

NPO法人Fineアンケート

当事者の声をまとめ、総務大臣へ提出

当事者の声を集めて、社会に届けるのがわたしたちの役割。

これまで「経済的負担に関するアンケート」や「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート」「夫婦のささえあいアンケート」などを行ってきました。

 

掲示板やおしゃべり会のように、当事者同士が共感できる場ももちろん大切だと考えています。

けれども、それだけでは社会課題の根本の解決にはつながらない。

その悩みを作っている社会の仕組み、環境、人々の意識は変えていかないと。

 

——社会が変わらないと、掲示板でみた現象のように、毎年同じことで悩む人がでてきてしまうんですね。それではなんの進歩もしていません。

そもそも社会課題として認知されない

そもそも人々は、不妊という社会課題があることすら知らない

知らないから思いやれないわけで、何もわざわざいじわるをして、年賀状に赤ちゃんの写真を載せたり、「子どもはつくらないの?」なんて聞いてくる人はいないと思います。

なにが「つらいこと」「嫌なこと」になるかは、本人に言ってもらうか、自分が体験しないかぎりわからないし、よかれと思ってやっていることが、相手にとって迷惑になることって不妊にかぎらずあると思います。

それらはみんなミスコミュニケーションだと思います。

誰が悪いというわけではない。

 

だったら、当事者は自分たちの立場で「これが辛い」「これが大変」「こうだったらいいな」を発信しないと。

それを発信する人がいないなら、わたしたちでやってみる?って団体を立ち上げたんです。

NPO法人Fine-不妊白書不妊白書を作成。当事者の抱える課題を数値で示した。

自分を特別視してはいけない

よく「不妊はデリケートなことだから」と話さない人がいます。

実際に不妊治療と仕事の両立が難しくなっている要因のひとつに、当事者自身が治療をしていることを言わない、というのがあります。本人がバリアを作ってしまっているケースも多いんです。

 

——まずは治療をしていることを話さないと、会社の制度を使うこともできませんしね。

 

そうですね。だからまずは、当事者が治療をしていることを話しやすくなる環境をつくっていくことが必要だと思っています。

 

もちろんバリアをつくってしまうのも、本人だけのせいではありません。

教育や社会環境がの影響も大きいんです。

 

不妊は今や個人的な問題ではなくて社会的な問題です。

わたしたちがやるべきことは、不妊が特別視されない社会をつくること。

そのためには当事者自身が、自分を特別視してはいけない

 

「わたし不妊治療してるんだよね」と会話の中で自然に言えるようになれば、不妊でない人も「へぇそうなんだ。」みたいに日常の会話の一つになれると思っています。

不妊に限った話ではなく

不妊に限らず、周りが知ってさえいれば解決できる課題はいっぱいあると思う。

不妊だろうと、障害だろうと、LGBTだろうと、マイノリティであることは、別に腫れ物にさわることではない。

打ち明けられた側も「へぇそうなんだ」っと、自然に受け入れられるものになればいい。

 

「わたし自閉症なんだ」

「へぇそうなんだ」って。「えっ」とかではなく、過剰に気を遣うでもなく。

 

現状、不妊当事者は悩んでいることをなかなか周囲に話せないから、その課題はあまり外に出てきません。だから、不妊でない人は、受け止め方がわからないという悪循環を生んでしまっていると思います

だからこそ、当事者の意識と社会の意識の両方を変える必要がある。

そうすることで、お互いにとって心地のいい社会になると思っています。

 

きっと時間はかかってしまうけれど、教育が変わればいい。

小学校や中学校の教科書に載ることで、「世の中には不妊の人もいるんだ」という意識は変わるはず。

特別なものでも腫れ物でもなくなるはずだと思っています。

 

——–時間はかかるかもしれませんが、これからの人たちの意識が変われば、社会全体の意識が変わっていくかもしれないですね。

年に1度のFine祭り

「祭りだ、祭りをやるしかない」

やはり、当事者自身の意識が変わることが大切だと思っています。

わたしたちは「不妊の話って人に話していいことなんだ」と思えるきっかけとして、「Fine祭り」を毎年開催しています。

 

そもそもFine祭りがどうしてはじまったのか、というお話をします。

団体ができて3年目の2007年。

大阪で40~50人規模のおしゃべり会をしました。

 

そのとき会の最後に「今日は来てよかった。本当は来るかどうか迷って、すごく怖かったんです。生まれて初めて不妊のことを人に話しました」と声をかけてもらいました。

 

2007年だから平成の話ですよ。

しかも40~50人も集まっていたのにみんなが生まれて初めてと口をそろえて言った。

さらに場所は僻地でも何でもない、大阪という大都会でした。

この時代になっても、この大都会でも、「不妊のことは話せない」とみんなが思っていて、実際に1人で悩みを抱えていたということです。

 

私はこれにひどくショックを受けてしまったんです。

わたしが治療をしていたときも、不妊の話はしづらい雰囲気はあった。

けれどそれから10年もたっていた。

なのに、何年たっても不妊当事者の置かれている状況は変わっていないんだ。なんでみんなコソコソと治療しなきゃならないんだろう、別に悪いことをしているわけじゃないのに……!って。

 

大阪でのおしゃべり会のあと「なんで不妊って人に打ち明けられないことになってしまってるんだろう」って考え込んでしまいました。

どうしよう、どうすべきか、どうすればいいんだ、と考えていたらふと思いついた。

 

「祭りだ、祭りをやるしかない。ここは一発ドーン!と、不妊を掲げて祭りをやるしかない!」

いま思うと唐突な答えだったかもしれないけれど、「祭りだ祭りだ」って北島三郎が舞い降りてきた。

最後はみんな満面の笑みで帰っていく

第1回のFine祭りは、不妊治療をしていた、Fine名誉会員でもいらっしゃるジャガー横田さん夫妻をお呼びしました。

明るく楽しいイベントにしたかったので、ぜひともこのお二人にお越しいただきたかったんです。

お忙しい中ご出演のご快諾をいただき、本当にうれしかったです。

 

渋谷のウィメンズプラザを貸切って、ホールではトークショーや専門家の講演を実施。

「祭り」ということで、いろんな妊活グッズ企業さんの出展もあり、楽しいことならなんでもOKと、気分転換やストレス解消になるまつ毛パーマや小物づくりもやりました。

とにかく不妊というキーワードをタイトルに入れたイベントをして、「隠れていなくてもいいんだよ大丈夫。同じように不妊で悩んでいる仲間は、こんなにたくさんいるんだから。一人じゃないよ」とメッセージを届けたかった。

 

ありがたいことに、会場の外に列ができるくらいのたくさんの人が来てくれました。

 

——–コソコソするものではないということを伝えたくて、「祭り」とかかげているんですね

 

そうなんです。「なんで祭りなの?」と言われるんですが、とにかく楽しいものにしたかった。

不妊のネガティブなイメージを払拭したかったんですよね。

だからってさすがに「不妊祭り」はやめてねとメンバー言われたから、せめて「Fine祭り」なんですが。

第1回は「Fine 祭り2008  ひとりじゃないよ!不妊」とイベントの名前を付けました。

とにかく、悩んでいるのはひとりじゃないということを伝えたかった。

 

それだけ不妊当事者ってひとりぼっちだと感じてしまっている。

Fine祭りやおしゃべり会に参加する人は、はじめはみんな下を向いて、カチカチに緊張していて、ちっちゃくなっている。

けれど、体験談を聞いたり、おしゃべり会に参加したりするうちに、笑ったり泣いたり、初めての人とたくさん話して、最後はみんな満面の笑みで帰っていく。

その瞬間が、本当にほっと嬉しくなる時間なんです。

この為に、この活動をしているんだ、とメンバー一同思っています。

Fine祭り2018 知りたい!みんなの妊活

今年のFine祭りは、11月25日の日曜日に開催します。

昨年までの数年間は全国6カ所をまわっていたけれど、今年は趣向を変えて東京1か所で実施。

その代わり来られない地方の方のために、一部ライブ中継をします。

 

目玉になるのは不妊体験談。

男女6人が、妊活・不妊にまつわる体験談を、一人あたり約20分お話します。

今回は、治療の末に妊娠・出産できたひと、治療を経て、子どもはさずからなかった人、男性不妊、仕事との両立に悩んだ人、といったそれぞれ違ったテーマの体験談を聞くことができます。

 

そのほかにも、不妊症看護認定看護師さんや認定臨床エンブリオロジスト(胚培養士)さんといった不妊の専門家に個別相談ができる「不妊スペシャリスト相談コーナー」も。

不妊専門としている看護師さんってまだ数は多くないし、培養士さんはなかなか会うこともないから、専門家の話をきくことができるのはとても貴重な機会です。

 

それに自分が通っているクリニックとは別の専門家に、客観的な立場からアドバイスがもらえるというのも大きいということで、毎年大人気で、受付開始の1時間以上前にいらっしゃる方も。

 

今回のFine祭りは「もっと話したい」「友だちづくりのきっかけがほしい」「男性同士で話がしたい」といったこれまでの声を踏まえて、不妊当事者の孤立感をなくすための「共感と絆づくり」を大切にしています。

Fine祭りは不妊体験者でなくても誰でも来ることができるので、まずは知るためにも来てみてくださいね。

Fine祭り2018 知りたい!みんなの妊活」公式ホームページ

編集後記

不妊が「なんでもないこと」になるには、まずは自分自身が不妊であることを特別扱いしない。

 

当事者が自分の悩んでいること、苦しんでいることを発信しないかぎり、そもそも困っている人がいることを認知されません。

悪気があって、子どもの有無を尋ねたり、写真を見せてくる人はいません。

受け入れる側が、当事者の悩んでいることを知るために、まずは当事者の声を発信することが必要なのだとわかりました。

 

そしてこれは、不妊に限った話ではありません。

「マイノリティ(少数派)」とされる人達全般に通じることです。

 

どんなことに困っている人がいるのか、その人にはどんな寄り添い方があるのかを知ること。

まずはできることから始めましょう。

 

「家計を助けるために、中学校を退学しようかと思う」

こう話しているのは、わずか10歳ほどの子どもたち。

世界には、満足に教育を受けることができない子どもがいます。

「小学校退学」はなぜ起こる?|タイ・ベトナム・カンボジアの教育事情

 

ひきこもりは本人の甘え?家族の責任?

実は社会が生んだ課題であり、社会全体に関わってくる課題なのです。

すべての人が生きやすい社会になるためのヒントがここにあります。

ひきこもり支援の歴史と実態|自分らしく生きることができる社会とは

 

日本では6人に1人のこどもが、40人のクラスであれば6.6人のこどもが「相対的貧困」であるとされています。

そもそも”相対的貧困”とはなんなのか、一体どういう問題が起きてくるのか。
今回は日本の見えない社会課題について、フォーカスしていきます。

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